「子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法」 世界共通の悩み

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

子供が生まれても夫を憎まずにすむ方法

『子供が生まれても夫を憎まずにすむ方法』

著者
ジャンシー ダン [著]
出版社
太田出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784778315962
発売日
2017/09/25
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

男女の悩みは世界共通 心や体が壊されぬうちに一読を

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 著者のジャンシー・ダンと夫のトムは10年一緒に暮らした後に娘を授かった。仕事は二人ともライターで大人しいタイプ。だから上手くやっていけるに決まっている。だがその思いは赤ちゃんが生まれた直後に裏切られた。ゴミ箱の中の使用済みオムツを片付けない夫にキレたのだ。クソ野郎。この野郎。死んじまえ。

 6年が経ち家事をほぼ一人で担当するジャンシーは、夫に怒りを爆発させ続けている。なぜ女性だけが育児をさせられ夫は協力しないのか。

 ここで一つの疑問が生まれた。愛する娘の誕生がなぜ夫婦関係を壊してしまうことになったのだろう。その謎を探り結婚生活を元に戻すため、仕事で知りあった様々な専門家を訪ね、夫婦のカウンセリングをしてもらうことにした。

 ハーバード大学進化生物学教授には、男性が家庭から逃避する適応的理由があるか、と問い、事あるごとに家から脱出したがる男の心理を理解しようとする。離婚寸前カップルのカウンセリングで定評のあるプロには二人で会いに行き、涙が出るほど高価な5時間のセッションを体験する。子どものせいにしてお互いの悪口を言い合う姿は、同じような境遇にある夫婦には多分痛すぎるだろう。だが、膿は出しきってしまわなければ。

 次に参考にしたのはFBIの人質解放交渉人による危機介入における5段階の紛争解決方法だ。「話を聞く」「共感する」「信頼関係を築く」「影響力を得る」そして最後に「行動の変化」までの経過を具体的な例を示しながら説明していく。これは結婚生活のみならず、どんな人間関係にも応用できそうだ。

 他にもセックス・セラピスト、ファイナンシャル・セラピストなど二人の生活に直接結びつく専門家からのアドバイスにより、時間はかかったが二人の関係は劇的に修復されていく。男女の悩みは世界共通。蓄積された疲労で母親の心や体が壊されないうちに、本書を一読してほしい。

新潮社 週刊新潮
2017年11月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク