日本の「女性権力者」たちはなぜ排除されたか

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

〈女帝〉の日本史

『〈女帝〉の日本史』

著者
原 武史 [著]
出版社
NHK出版
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784140885291
発売日
2017/10/07
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

女性権力者たちはなぜ排除されたか

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 この日本では、女の政治家は極端に少ない。女性議員の比率は、一九三カ国中一六四位だそうだ。つまり相当な後進国。

 日本は昔から男尊女卑思想だからか。儒教の影響で、男は外、女は家の中で働くという規範が強いせいか。いずれも根拠として弱い。神話の女神はもちろん、女性天皇も、「帝の母」として権力を握った女性も、歴史上たくさんいる。それに、日本よりも儒教色の濃い韓国ではすでに女性大統領さえ存在したのだ。

 日本でも女性権力者は連綿と、あたりまえに存在した。「普通のことだった女帝の歴史」はいつしか、男系イデオロギーによって隠蔽され、矮小化されたのではないか。そのあたりの事情を明らかにした原武史『〈女帝〉の日本史』は、時代ごとの女性権力者たちの立場を詳細に検討しつつ東アジア全体と比較した労作である。

 日本は、あるとき女帝を排除することにしたのだ。あからさまな男尊女卑思想を説いても許される「空気」がそのとき日本を覆い、その影響は現在まで尾を引いている。女帝排除の現代は、日本の長い歴史と伝統のなかでむしろ特異なのに。

 思うに、女性を「無垢で聖なる、慈母のごとき存在」とする考え方は、女性蔑視と同一のもの、コインの裏表である。理想の女性像を、欠点も悪意ももつ「普通の人間」のほうにちょっと押し戻せば、女性のみならず男性の息苦しさも軽減されるはず。この本はそのためのテキストだ。

新潮社 週刊新潮
2017年11月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク