『ザ・ガールズ』
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題材は女優も犠牲になった「マンソン事件」 映画化デビュー作
[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)
うつむき、睫毛を涙で濡らしながら歩く、傷ついた少女たち。その男は心の弱った女性の悲しみにつけいり、次々と食い物にした――いま世間を震撼させている座間市の一連の事件を髣髴させるではないか。
一九六〇年代末から起きた「マンソン・ファミリー」による連続殺害事件をご記憶だろうか。被害者には、妊娠中だった女優のシャロン・テートらもいた。首謀者は、折しも危篤の報の入った、カルト団の元教祖チャールズ・マンソン(83)だが、実際に手を下していたのは、彼に洗脳された青年や少女たちだった。『ザ・ガールズ』はこの事件をモデルに、カルト団のメンバーだった女性の回想で物語られる。
鳴り物入りのデビュー作だ。クラインはこの事件に夢中になった過去の自分を短篇に綴り、これがいきなり「パリ・レビュー」に掲載。その後、大手版元と契約、多額の前払金を受け(三作で二百万ドル)、『ザ・ガールズ』は映画化が決まったという。
ヒロインは十四歳のイーヴィー・ボイド。時はヒッピー文化とドラッグとベトナム反戦運動の嵐が吹き荒れた一九六九年だ。両親の離婚で孤独を抱えていたイーヴィーは、あるとき公園で異様な身なりの少女たちを見かけ、魅入られる。彼女らはラッセルという男を教祖のように崇拝し、集団生活をしていた。しかしイーヴィーが心奪われ、必死で認めてもらおうとするのは、この男ではない。少女たちのリーダー、黒髪のスザンヌである。
中年になったイーヴィーが語り手だが、彼女のなかには、未だに「わたしを見て」という少女時代の承認欲求が残っているのが痛々しい。自分が人を殺さずに済んだのはたまたまかもしれない、と彼女は言う。なぜ元の世界に戻ってこられたのか。マンソン事件をモデルにしながらマンソン役は前面に出さず、少女メンバー同士の関係に光を当てたところに、リアルな考察と新しい物語が生まれた。今こそ読みたい一冊。