感性勝負のこの時代に 78歳女性が撮った十年間のパッション

レビュー

4
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Frame Out.

『Frame Out.』

著者
宮城 ヨシ子 [著]
出版社
ボーダーインク
ISBN
9784899823254
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

この人にしてこの写真あり 78歳女性が撮った斬新な感性

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 年をとってから始めても、キャリアの長い人にひけをとらない表現とは何だろう。歌や絵や陶芸は技術が要るし、俳句や短歌も形式に慣れるのに時間がかかる。でも機械が介在する写真は、撮った初日に名作が生まれる可能性がある。とりわけ、デジタルカメラの登場で技術的な面倒から解放されると、ますます感性のみで勝負できるようになった。

『Frame Out.』は、そのまったき例である。この写真集を見て著者が七十八歳の女性とは、だれも想像しないだろう。二十代が撮ったと思っても不思議はない。それほど生き生きして、楽しげで、撮る歓びがまさに「フレームアウト」している。

 車窓から、友達の頭を鞄の中に突っ込もうと路上で悪ふざけしている子どもを撮った写真がある。アラーキーもびっくりの反射神経だが、物事を見逃すまいという意識をもって生きていないと、こういう写真は撮れない。気を抜くと視界が曇る。とはいえ、構えすぎてもダメなのだ。

 草むらに咲いているユリの花を、斜め後ろから撮った写真もユニークだ。花びらのあいだに葉がはさまって身動きがとれない。ああ、どうしよう、というユリの切ない声が聞こえてきそうだ。撮り手はユリと心を一つにして同化しているのだ。

 階段の不気味な染みとか、蜘蛛の胴体の裏側のアップなどもある。どれも手近な言葉では表現できないが、そういう対象に、首を傾げながら、問いかけるようにシャッターを切っている。子どものときからこういう人だったのだろう。むしろ写真を手にしたことで、おとなの部分が抜け落ち、どんどん自由になっているように見える。

 簡単に撮れる時代になり、続けることの方が困難になっている気がするが、十年間の成果が詰まった本書からは、彼女のパッションが湧水のごとき状態にあるのがわかる。巻末の独り語りも味わい深く、この人にしてこの写真あり、とうなずく。

新潮社 週刊新潮
2017年11月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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