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楽しきバカバカしさ 裏で支える構成の妙
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
惑星キンゴジ随一の観光名所、怪獣ランドで、人気ナンバーワンの怪獣ガッドジラ(ゴジラによく似た原住生物)が、頭部を切断されて殺害された。だが、凶器は見つからず、監視カメラの映像を見る限り、現場の飼育棟は密室状況。いったい誰が(どの怪獣が)どうやって殺したのか?
前代未聞のこの密室殺怪獣事件の捜査を依頼された宇宙探偵ノーグレイは、単身、惑星キンゴジに赴く。
……という思いきりバカバカしい設定のもと幕を開けるのは、田中啓文の文庫オリジナル連作SFミステリ『宇宙探偵ノーグレイ』の第1話「怪獣惑星キンゴジ」。このぶっ飛んだ背景にもかかわらず、ミステリ的には意外ときちんとしていて、ハウダニット(凶器)もフーダニット(犯人)もホワイダニット(動機)も、実に論理的に解明される。しかも、ふつうの連作ミステリではありえないオチがつくのだが、それは読んでのお楽しみ。
他にも、ウソをつくことを含め、いかなる罪を犯すことも不可能な天国惑星で起きた絶対にありえない連続殺人や、全住民が1日おきに脚本どおりに芝居する(あいだの1日は稽古に充てられる)演劇惑星で起きた劇中殺人など、5つの奇妙すぎる事件と、唖然とするその真相が描かれる。
一方、堀井拓馬『臨界シンドローム』(角川ホラー文庫)では、「不条心理カウンセラー・雪丸十門診療奇談」の副題通り、不条心理(既存のどんな症状にも当てはまらない稀有な心理症例)を研究する変人医師がホームズ役を務める。十門は本業の傍ら「月刊怪奇ジャーナル」に人気連載を持ち、その担当を押しつけられた新米編集者・黒川怜司がワトソン役。事件のひねくれぶりと、十門が披露する解決のキレっぷりが楽しい。
柴田勝家『ゴーストケース 心霊科学捜査官』(講談社タイガ)は、霊子(りょうし)科学が発達したもうひとつの日本が舞台となる警察小説。陰陽師にして心霊科学捜査官の御陵(みささぎ)清太郎が警視庁捜査零課の刑事・音名井高潔(おとないたかきよ)とコンビを組み、地下アイドルのファンが相次いで自殺した事件を追う。