数々の成功法則を検証 説得力の高い自己啓発書
[レビュアー] 田中大輔(某社書店営業)
今年の新書大賞を受賞し、40万部を超えるベストセラーとなった『言ってはいけない』(新潮新書)。その著者である橘玲が監訳をした『残酷すぎる成功法則』が、ヒットの兆しをみせている。ジュンク堂書店の週間ビジネス書ランキングでは、前回紹介した『SHOE DOG』(フィル・ナイト著、東洋経済新報社)に次いで2位にランクインしていた。
この本はアメリカで主流になってきているエビデンス(証拠)ベースで書かれた自己啓発書だ。自己啓発書には成功した人が自らの経験を書いたものと、歴史や哲学、宗教などをベースに成功話をまとめたものがある。どちらも確かなエビデンスがないために、他人が真似しても、うまくいくかどうかはわからない。しかし、この本は様々な成功法則をエビデンスベースで検証しているので、ずっと精度の高いものになっている。本書に出てくる邦訳本だけでも100冊近くある。自己啓発書をたくさん読んできた人ほど楽しめる本だ。
この本で一番、目から鱗が落ちたのはポジティブシンキングが誤りであるということだ。ヒトの脳はフィクションと現実を見分けるのが不得意。だから、夢の実現を強く願うと、脳はすでに望みのものを手に入れたと勘違いして、努力せずにリラックスしてしまう。ダイエットに成功した姿を思い浮かべていると、ダイエットはうまくいかないのだ。
また、自信に関する話も興味深い。成功する人は最初から自信を持っているそうだ。ゆえに自信のあるフリも、ある程度はプラスに働く。しかし化けの皮が剥がれたときのマイナス面も大きい。そして、最も致命的なミスを犯すのは自信過剰の人だという。ものごとがどれほど困難なのかがわかっていないから、自信満々でいられるだけなのだ。
だが、この自信に関する話よりもっと重要なのが、「自分への思いやり(セルフ・コンパッション)」こそが大事だという指摘だ。事実に目を向け、自分が完璧ではないことを受け入れる。ミスをしても自分を批判せずに許す。そうすることで、自らを改善していく賢明さが身につき、人生はよりよい方向へと導かれていくはずだ。