『最後のソ連世代 ブレジネフからペレストロイカまで』 アレクセイ・ユルチャク著

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最後のソ連世代

『最後のソ連世代』

著者
アレクセイ・ユルチャク [著]/半谷史郎 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784622086420
発売日
2017/10/19
価格
6,696円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『最後のソ連世代 ブレジネフからペレストロイカまで』 アレクセイ・ユルチャク著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

静かに進む体制の腐朽

 かつてソ連でスターリンの指導する全体主義体制が猛威をふるっていた一九五二年に、米国の社会学者、D・リースマンはこんな指摘をした。――イデオロギーと監視によってどんなに強力に統制された社会でも、人々が権力による動員に扇動されず、私生活へ逃避してゆく動きが起こるだろうし、それが体制に対する抵抗の効果をもつのではないか(永井陽之助訳『政治について』みすず書房)。

 ペレストロイカの時代から、共産党支配とソ連そのものの崩壊へと一気に突き進み、人々の多数がその変化を歓迎した。のちの時代の歴史を知った目でみると、このリースマンの予言は、あたっているように見える。だが本書によれば、そうした理解は重大な点を見落としている。ブレジネフ時代以降のソ連で青少年期をすごした、「最後のソ連世代」の一人である文化人類学者がまとめた一冊である。

 当時の若者たちの書簡や演説原稿、さらに好んだ音楽や街頭パフォーマンスなど、厖大(ぼうだい)な資料を使いながら、時代の精神風景を明快に分析している。彼らは決して自由主義圏の知識人が期待する「抵抗」の意識をもっていたわけではない。だが、政府が下してくるスローガンを本気で口にしながら、その中身を変えていった。ブルジョア文化への批判、指導部の堕落に関する指摘という形式を保ったまま、めざすべき理想の実践として、同時代の「西側」の音楽やファッションの流行をとりいれてゆく。

 すでにソ連末期には、この動きがイデオロギーによる支配を根本のところで掘り崩していたと著者は指摘する。同じような現象は、規模の違いはあれ、昭和日本の戦時体制にも見ることができるだろう。そして現代にも残る、いくつもの強権的支配の国家に関しても、その社会の深部では体制の腐朽(ふきゅう)が静かに進んでいるのではないか。この本の叙述から、そうした想像力の必要にも気づかされるのである。半谷史郎訳。

 ◇Алексей Юрчак=1960年旧ソ連生まれ。米カリフォルニア大バークレー校人類学准教授。

 みすず書房 6200円

読売新聞
2017年11月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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