『内乱の政治哲学 忘却と制圧』 神崎繁著

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内乱の政治哲学 忘却と制圧

『内乱の政治哲学 忘却と制圧』

著者
神崎 繁 [著]
出版社
講談社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784062208291
発売日
2017/10/20
価格
2,592円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『内乱の政治哲学 忘却と制圧』 神崎繁著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

博捜的思索の到達点

神崎繁様

 あなたが亡くなってちょうど一年の日に遺稿集が刊行されました。生前に発表された2本の長大な論考に加えて、死の直前にまで手直しされていた原稿が、友人たちの編集を経て思索の現場を再現しています。あなたが63年の人生で到達された思考が、こうして美しい本になったのは、何より嬉(うれ)しいことです。

 「忘却と制圧」という副題は、政治と哲学の臨界に挑むあなたの関心の終着点を示します。ギリシア哲学・古典学の最先端の研究でありながら、政治の現実、私たちの生きる現場に鋭く投げかけられる問い。古代ギリシアで初めて発せられたアムネスティー、「悪の記憶の禁止」―現在は「大赦」と訳されます―とは何か。それへの哲学者たちの言及や沈黙から、内乱や和解をめぐって思索が促されます。プラトン、ホッブズ、現代の間を行き来する論述は一見錯綜(さくそう)した迷宮のようですが、そこに浮かび上がる視野と問題喚起力こそ、あなたが得意とした独特の論法でした。今まざまざと想(おも)い起(おこ)します。

 アリストテレスを読んできた西洋哲学の豊かさと屈折を、ヘーゲル、マルクス、ハイデガーに辿(たど)る長編論文は、彼らがギリシアをどう読み込み、自分の哲学に変容させたかを示す哲学史の真骨頂です。あなたが専門としたアリストテレスを、マルクスは考察の問いを掘り起こす「水探知の願い棒」と呼びました。あなた自身の考察は、テクストを読みながら水源を見出(みいだ)すアリストテレスのもう一人の子供であり、私たちにとって変わらぬ優れた水先案内人です。

 本書のテーマは記憶と忘却です。哲学は不在の意味を書かれた言葉から読み解き、現在として生き直す営みです。それは忘却を超えて死を受け継ぐことであり、魂の痕跡を辿る旅です。あの自在で博捜(はくそう)的な思索はもうありません。あなたのお仕事を見届けた私たちは、それぞれの仕方でその記憶と志を引き継いでいきます。

 ◇かんざき・しげる=1952~2016年。首都大教授などを歴任(西洋古代哲学)。著書に『魂(アニマ)への態度』。

 講談社 2400円

読売新聞
2017年11月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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