『失踪の社会学』 中森弘樹著

レビュー

8
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失踪の社会学

『失踪の社会学』

著者
中森 弘樹 [著]
出版社
慶應義塾大学出版会
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784766424812
発売日
2017/10/14
価格
4,536円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『失踪の社会学』 中森弘樹著

[レビュアー] 尾崎真理子(読売新聞本社編集委員)

“消える”病理を追究

 身近な人間がふっと姿を消す。フィクションではよくある設定だが、実際にも負債やDV被害など様々な事情を抱えて長期間、不明になる人々は、毎年数千人を下らないという。

 一方的に応答を絶ち、一切の責務を放棄する失踪者。生死も定かでない「あいまいな喪失感」から、悲嘆と怒りに苛(さいな)まれる近親者ら。

 本書は1950~2015年に報じられた事例を見渡した上で、先行研究を幅広く取り込み、失踪した当事者、家族にも対面調査を行い、考察を凝らしていく。「なぜ、人は家族や集団から消え去るのか」「何が親密な関係の中に人を引き留めるのか」。そして行き着くのは「失踪は自殺の代わりになるのか」。極めてシリアスで、今日的な問いである。

 たしかにその時々の世相、倫理と密接な関係にある社会の病理だ。1950年代には都会にあこがれる家出娘が好奇心の的となり、離婚がまだタブー視されていた70年代には、夫や妻の「蒸発」が週刊誌やテレビに繰り返し登場する。90年代後半には不況から夜逃げが増え、無縁社会と言われ始めた2010年代には、100歳を超えているはずの人々の所在不明が取りざたされた。

 昨今はSNSで四六時中結ばれる家族、友人関係の圧が高まる。限界を超える労働やいじめといった、息苦しい環境も改善は進まない。社会的な絆が強すぎても、反対に機能しなくても、人が離脱する可能性が生じている。幼少期に受けた激しい叱責(しっせき)を要因に挙げる当事者も登場する。失踪は究極の無責任、謝罪回避とみなされもするが、当人はむしろ長く責任にとらわれるケースもあると本書は指摘する。

 さらに、失踪が「親密な関係」を修復する猶予期間、自殺を回避する手だてとなる可能性まで懸命に追究されていく。学術論文の枠からあふれんばかりの内容は、議論も引き寄せるだろう。それでも、社会の現状へ風穴を開けようとする果敢な試みとして注目したい。

 ◇なかもり・ひろき=1985年生まれ。日本学術振興会特別研究員。京都大、立命館大、京都造形芸術大非常勤講師。

 慶応義塾大学出版会 4200円

読売新聞
2017年11月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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