同年代カメラマンを主人公に「生」と「死」を描く四連作

レビュー

5
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人の昏れ方

『人の昏れ方』

著者
中原 清一郎 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309026237
発売日
2017/11/13
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

同年代カメラマンを主人公に「生」と「死」を描く四連作

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

 生と死を描く連作の四篇それぞれに「青春」「朱夏」「白秋」「玄冬」と副題がつき、矢崎晃という主人公の人生の季節に対応している。

 最初の「悲歌」で、二十歳の晃は、父親の自死を知らされる。父は、なぜ死を選んだのか。自分について語ることの少なかった父の過去を、後事を託されていた父の友人が語り始める。開拓団の小学校の校長として満州に渡った父の敗戦前後の日々は、想像を絶する苦しみに満ちたものだった。

 それまで存在すら知らなかった、失われた家族の歴史を、一人残った息子が引き継ぐ。続く「生命の一閃」では、晃は新聞社の中堅カメラマンになっており、自宅の近所で起きた事件取材で、組織の一員として難しい選択を迫られる。

「消えたダークマン」では、一線を退いていた晃が戦場カメラマンとして再び最前線に立ち、セルビア人の女性アシスタントとコソボを取材する。最後の「邂逅」では、新聞社を早期退職して、遺品整理のアルバイトをしている。

 連作のはじめに、「朱夏」の「生命の一閃」があった。「北帰行」で一九七六年に文藝賞を受賞した外岡秀俊が、朝日新聞社に入り、記者時代に中原の筆名で発表した小説が、長篇『未だ王化(おうか)に染(したが)はず』と、この「生命の一閃」の二作である。

 自身と同年代のカメラマンを主人公に、抜き身の刀がぎらつくような、息苦しいまでに濃密な生を凝縮した「生命の一閃」を発表してから約三十年後に、残りの三作が書かれた。自身の「朱夏」の時代に生み出した、分身のような主人公の未来を探る作業を通して、著者は彼の過去もまた探り当てたのだ。

 無念のうちに亡くなった人々の思いを背負わされた主人公は、死をも軽やかに消費する時代の波にもまれて苦しむが、死から目を離さない。死者の思いを忘れないことが彼の行動倫理で、はっきりした輪郭にもなっている。

新潮社 週刊新潮
2017年12月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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