谷口晃平・インタビュー 文豪×ゲーム×新潮社 『「文豪とアルケミスト」文学全集 』

インタビュー

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谷口晃平・インタビュー 文豪×ゲーム×新潮社 『「文豪とアルケミスト」文学全集 』

[文] 新潮社


谷口晃平

 太宰治『斜陽』の失われた直筆原稿が収載されるなど各所で話題となり、発売即重版となった『「文豪とアルケミスト」文学全集 』。「文アル」ゲーム初心者へ向けて、生みの親に本書の魅力を伺った。

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――『「文豪とアルケミスト」文学全集』は大人気ゲーム「文豪とアルケミスト」に登場する文豪キャラクターたちの基となった作品や、リアルな関係性がわかるエッセイ、座談会などを集めたアンソロジーです。そもそも「文豪とアルケミスト」というゲームがどういったものか、教えていただけますか。

「文豪とアルケミスト」はDMM GAMESが贈る“文豪転生シミュレーション”のブラウザゲーム、スマホアプリゲームです。舞台は「どこかの時点で違う歴史を歩み始めた日本」。その中で文学書は多様な思想を生み出すものとして、人々に個性や意志を与える役割として尊重されていました。しかしそれが突如、謎の「侵蝕者」たちによって、全項が黒く染められてしまい、最初から存在しなかったかのように、人々の記憶から奪われ始める異常事態が発生します。プレイヤーは「アルケミスト」として、文学の力を知る文豪たちを転生させ、彼らの力を借りて「侵蝕者」を追伐していく――。そういう内容になっています。

「文学の力を知る文豪たち」というのは日本文学史でおなじみの、芥川龍之介だったり、太宰治といった人物なのですが、「文アル」キャラクターを見ていただけたらわかるように、実際のご本人の見た目というよりは、作品のイメージが反映された形になっています。

 ゲーム、と一言で言っても、敵と戦うことの面白さに特化した格闘ゲームのようなもの、小説のように一本のストーリーを追っていくノベルゲームのようなもの、プレイヤーに感情移入して対象キャラクターとの疑似恋愛を楽しむ恋愛シミュレーションゲームなど、様々なゲームが存在します。そして、シナリオの良さやゲームのシステム、デザインそのものの魅力などを売りにします。そのなかで「文豪とアルケミスト」は、「実際の文豪をキャラクター化した時の魅力」を押し出していこうと決めました。なので彼らの見た目やゲーム全体の雰囲気作りにはとても気を配っています。

――企画段階からかなり練られたものを準備されているのですね。

 今回のゲームでは「コンセプトアート」というゲームの世界観の魅力が一目で伝わるものが特に重要でした。最初の段階で、たしか100枚以上のラフ案を用意しましたが、実際に使われたのはその一割にも満たないです。
 実はゲーム自体も、最初は文豪ではなく、文学作品の主人公をキャラクター化するつもりだったのですが、作品名に比べると主人公の名前はあまりにも知名度がない。それなら著者でいこうと。最初に出来たキャラクターは「芥川龍之介」なのですが、代表作である「歯車」「羅生門」「蜘蛛の糸」のイメージが彼のビジュアルイメージだけでなく、ゲームのメインモチーフである「蓮の花」だったり「歯車」に込められています。彼らが何を持っているか、という小物類についても細かい設定があって、かなり丁寧に指示を出しています。

――坂口安吾は現実でもかけていますが、ゲームのキャラクターの方もメガネをかけていますね。

 安吾はやはりメガネが印象的だと思いましたので。他のキャラクターは、実際にメガネをかけていたとしても外してしまった人も多くいます。

 また、世界観監修をしてくださっているイシイジロウさんの薦めもあって、キャラクターボイスは有名声優さんにお願いしました。「文学の世界ではみんなビッグスターなのだから、ビッグな声優さんに頼んでもおかしくない」と。

文豪たちの見た目にこだわるわけ

――文豪たちを魅力的に見せたいという情熱はどこから来ているのでしょう。

 もともと私自身子どもの頃から「本さえ与えておけば静かにしている」ように扱われるぐらい本が好きで、本ばかり読んでいました。理系に進学してシステムエンジニアとして全然別の仕事をしていて、ひょんなことからゲーム会社に勤めることになり。ならば、本の面白さというものをゲームのプレイヤーにも感じられるようなゲームを作りたいと思い企画を立てました。近現代文学の本から入って、著者である文豪に興味を持ち、そしてその横のつながり、関係性にも興味をもち、この面白さは絶対に普遍的なものだと感じました。芥川や太宰といった文豪達のなかでも有名人をとっかかりに、あまりなじみのない文豪達も知って欲しいと思いました。

――ゲームでは徳田秋声がいきなり出てきて、正直「渋いな」と思いました(笑)。

 DMM GAMESの製作チームは金沢にいるので、地元愛もあって、金沢市民なら誰もが知っている金沢三文豪、徳田秋声、泉鏡花、室生犀星をフィーチャーしたいと考えました。ファンの方が金沢へ来て、石川近代文学館と三文豪の記念館を巡って一泊するという金沢文豪モデルコースというのがあると聞き、とてもありがたいと感じます。

――キャラ人気に傾向はありますか。

 キャラクターの人気投票のようなことはしておりませんが、まんべんなく熱心なファンがいるなと感じています。文豪たちは実際、ちょっと「ダメ人間」タイプの人が多いので、そういう文豪エピソードに惹かれるファンの方、一方で、白樺派のキャラクターのように、出自も素行も良い王子様タイプのキャラクター性に惹かれるファンの方もいます。白樺派とか、新思潮といったグループ項目を設けているので、このゲームをプレイすると、文学史上の系統がわかって受験に役立つという反応はちょっと面白かったですね。

ゲームを知らない読者へ向けて

「文アル」は、実際の文豪たちの関係性の面白さを感じて欲しくて作ったゲームです。現時点で登場している文豪は四十五名。まだまだこれからも増えていく予定です。今までは割と文学史でも有名どころを選んできましたが、関係性を重視して、マイナー、マニアックな方向にもキャラクターを増やしていきたいと思っています。

 作風は全然違っても、実際には非常に仲が良かった文豪たちや、意外な接点を持つ文豪たち。そんな彼らのやりとりをプレイヤーには楽しんでもらいたい。そして、できればそこから興味を持った文豪たちが実際に書いた本にも手を伸ばして欲しい。だから、文豪同士の関係性が読み取れる資料、実作を編集して、「文アル」世界をより楽しめるような内容に仕上がった『文学全集』はとても理想的なコラボレーションの形だと思います。

 書籍の企画をいただいたときには、文芸の老舗の出版社である新潮社さんからお声掛けされたことにも驚きましたが、まさか行方不明だった『斜陽』の生原稿が出てきて、それが本の中に資料として含まれるとは。こんなことがあるのかと、本当にびっくりしました。文庫本のカバーを「文アル」キャラクターが飾ることも夢だったので、それがゲームをリリースして一周年のタイミングで叶って非常に嬉しく思っています。

新潮社 波
2017年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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