「ハートの保健室」出張版 「あなたのお悩みに答えます!」作家スペシャル

対談・鼎談

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リバース&リバース

『リバース&リバース』

著者
奥田 亜希子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103504320
発売日
2017/11/22
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

奥田亜希子『リバース&リバース』刊行記念 「あなたのお悩みに答えます!」作家スペシャル

[文] 新潮社

 ティーン誌の編集者である禄と中学生の郁美の心の交流を描いた本作。読者の悩み相談ページを担当する禄は「ろく兄」として、少女たちの様々な悩みに真摯に向き合いながら仕事をしています。
今回はスペシャルゲストとして、人気作家の赤裸々な悩みに「ろく兄」がズバリ切り込みます!

 ***

 作家になってから、毎月のように本や文芸誌をいただきます。とても楽しみでなるべく目を通すようにしていますが、なかなか追いつきません。くわえて、自分が読みたい本、仕事で読まなければならない本もあり、置き場所もどんどん少なくなっていくし、ちょっとしたことで読む順番も狂うし、なにがなんだかわからなくなってきます。活字が好きで、幸せなはずなのに、最近は混乱して本を一冊買うのも躊躇してしまいます。一体どんな風にして、いただく本、自分が読みたい本、読まなければいけない本を整理して読み進めていけばいいのでしょう。(柚木麻子)

 作家というのは、活字が好きでなければなかなか勤まらない職業だろうと推察いたします。本に囲まれている現状は、柚木さんにとって間違いなく喜びですよね。ですが、それが幸せであると、必要以上に思い込もうとしてはいませんか? どんなに好きな食べものでも、強制的に口に突っ込まれれば嫌になります。自分の好きなタイミングで享受することは、好きなものを好きであり続けることにおいてとても大切です。柚木さんがもっとも長い時間を過ごす場所には、読みかけのもの以外は置かない、というのはいかがでしょうか。柚木さんは未読の本からプレッシャーを受けすぎているように僕は思います。日常的に視界に入る本の数を、一時的でも減らすことはできませんか? そして、人から頂戴する本や文芸誌は後回しにする。そこに罪悪感を抱いてはいけません。届いて嬉しい本と読みたい本は、そもそも異なるように思います。仕事に必要な本は、自分が仕事中だと思う時間になるべく読み進めて、プライベートでは自ら購入したものを最優先に開く。「私はこれが読みたいんだ」という欲望を尖らせることが、今の混乱からの脱却に繋がる気がします。少しでもお役に立てればよいのですが。ろく兄より

 趣味で映画館やライブハウスによく行きます。自分が神経質なのは分かっているのですが、細かな周りの客のマナーの悪さがとても気になってしまいます。嫌だな、と思うだけならともかく、気がつけば何故だかその人をずっと気にしてしまい、映画やライブに集中することが出来ません。しかし注意する勇気もありません。どのような心持ちでのぞめば、他の客が気にならなくなるでしょうか?(住野よる)

 映画やライブを観に行ったのに、演目より客が気になってしまうというのは悔しいですね。映画は時間や場所を選ぶことで、多少は遭遇率を下げられるかもしれませんが、なぜこちらが気を回さなければいけないのかと考えると、不満が残ります。また、ライブハウスは日時に選択の余地がありません。これはもう、もっと気になることを作り出して意識を上書きするしかないと思います。住野さんが相手を気にしてしまうのは、その人がマナーの悪い行いを繰り返した際に、ほらやっぱり、と自分の目が正しかったことを確認して、多少の快感を得られるからだろうと考えます。たとえよくないことが対象であっても、自分の予想が当たると人は嬉しいものです。というわけで、映画やライブの中に、住野さんが確かめたい事柄を設定してみてはいかがでしょうか。話の展開、出演者の衣装、セットリスト、演奏中の動き。なんでも構いません。数秒後、数分先を常に予想し、当たった外れたに一喜一憂しましょう。集中するポイントはずれてしまうかもしれませんが、ほかの客が気になるよりはいいように思います。しかし、最大の解決は、マナーの悪い人が減ることですよね。住野さんの趣味の時間が楽しいものになりますように。ろく兄より

 後輩とうまく関係を築けません。学生時代の部活、社会人になってからの仕事関係者、どちらも、後輩や年下に対してうまく接することができません。彼らと向き合った途端、「年齢、年次が上だからってお前がクソ人間だってことはわかっている」という幻聴をキャッチしてしまい、変に距離を置いてしまいます。会社勤めをしている同世代の友人は部下をまとめ始めており、自営業の私はこの幼さを持て余し、焦っています。(朝井リョウ)

 人間性に難ありと思われている気がして変に距離を置いてしまうというのは、自分のことをそう捉えている相手と親しくなることに抵抗がある、もしくは気後れするということでしょうか。ですが、互いに心底信頼し合っている関係は実は少ないと、僕は考えます。それが仕事を介した付き合いならなおさらで、朝井さんのご友人と部下のあいだにも、なにかしらのマイナス感情はあるはずです。大切なのは割り切る勇気。実害を伴わなければ、クソ人間と思われている相手とも、思っている相手とも、それなりの人間関係は築けます。心の中では失笑されている可能性を引き受け、先輩ふうの振る舞いをしましょう。年を重ねるにつれ、周囲に後輩が増えていくのは自然の摂理です。後輩という存在に、これから慣れていくかもしれません。それに、今は五歳下を後輩に感じるでしょうが、二十年後は同年代も同然です。いっそ年が大きく離れた後輩なら、距離を置くことにも躊躇を感じないと思います。上辺を取り繕って時間を稼ぎ、悩みから逃げ切りましょう。そのあいだに焦りが克服されればラッキーです。大人とは、包容力を持っている人のことではなく、場に応じたプレイができる人のことかもしれません。年々後輩が増えていく身として、僕も頑張ります。ろく兄より

 初めてお便り書きます。僕はiPhoneを使っているのですが、何気なく設定画面のバッテリーという項目を見たんです。24時間以内にどんなアプリをどれだけ使ったかがわかるんですが、ツイッターを1・1時間、フェイスブックを35分、ラインを23分使っていることがわかりました。全てのアプリを合わせると、スマホを3時間以上触っている計算になります。もちろん仕事で使うこともあるのですが、ツイッターなんて間違いなく仕事ではありません。その時間があればもっと違うことができたのに。この相談も、もちろんスマホで書いています。僕はどうしたらいいでしょうか。(古市憲寿)

 スマートフォンは時を砂に変えますよね。触っている時間を減らしたい気持ちが少なからずあるようでしたら、仕事や外出に必要なものだけ残し、アプリを削除してみてはいかがでしょうか。ツイッターをパソコンでしか見られないものと自分に思い込ませるのです。パソコンの前に座っている時間は延びるかもしれませんが、スマートフォンをなんとなく掴み、つい長々と見てしまう頻度は減らせるように思います。もしくは、いっそ明るく楽しくスマートフォンを使用してはいかがですか? 無駄な時間とは、古市さんが後悔して初めて発生します。息抜きになったと本人が満足を得られれば、それは有意義な時間です。ツイッターは、コミュニケーションや情報入手のためのツールではなく、ゲームの類と捉えましょう。小中学生が一日にゲームで遊ぶ時間の平均は、一時間強だそうです。そう考えれば、1・1時間のツイッターはリフレッシュとして妥当だと思います。僕もせめてだらだら使うのはやめようと、改めて心に決めました。ろく兄より

 デビューして三十年近くになる作家です。謎解きの面白さを主眼とする本格ミステリというものを書いてきました。このタイプの小説では、他の作家が書いたことのない新しいトリックの発案が重要なのですが、最近はなかなかアイディアが浮かばず、困っています。加齢で思考に柔軟性がなくなってきているせいもあるのでしょう(現在五十八歳です)。心身にあまり負担をかけず、頭の柔軟性を楽に取り戻す方法はないでしょうか?(有栖川有栖)

 三十年近くひとつの土俵で勝負し続けるということが、正直申し上げて、二十九歳の僕には上手く想像できません。ですが、有栖川さんが興味を持たれていること、食指が動く領域については、あらゆる角度から照らしつくされたのではないかと考えます。となると、新しい分野、今まで有栖川さんの好奇心が働きづらかったところに踏み込むのが、柔軟性を取り戻す上で有効かもしれません。しかし、それは心に負担がかかること。特に本のような能動的な媒体は、興味がないと読み進めるのも辛いかと思います。そこで、非常に受動的なメディアである、テレビやラジオはいかがでしょうか。例えば中高生向けの番組や、ハンドメイドの講座、恋愛ドラマなど、これまでの有栖川さんに縁遠かったもの、もしくはザッピングをして一番面白くなかったチャンネルをしばらく流しておくのです。無理に視聴しなくとも、点けっぱなしにするだけで、多少は脳が刺激を受けるのではないでしょうか。雑誌という、視神経のみに訴えかける媒体を編集している者として、特別集中して見ていなかったものが無意識のうちに当人に及ぼす影響をとても面白く感じています。新たに目に触れたものが、すでに有栖川さんの頭の中にある知識と混ざり、化学反応のようなものを起こせたらと思いました。参考になれば幸いです。ろく兄より

寄せられる悩みに的確に答えるろく兄ですが、実は彼にも人知れず悩みがあって――。ぜひ本編でお楽しみ下さい!

新潮社 波
2017年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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