異端、難解、孤絶の精神の深所に迫る
[レビュアー] 図書新聞
折口学と呼ばれ、一定の熱狂的信奉者を持つ折口信夫だが、その作品、歌、小説、論文はひどく難解である。何度手にしても途中で投げ出してしまう。本書は明治の半ばに生まれ、大正期に壮年を過ごし、昭和の戦前期に旺盛な活躍をし、戦後は多く箱根の山荘に引き籠って六十六歳で閉じた生涯をなぞって、その異端、孤絶の精神の寄り拠を抉り出そうとする。青年期に遭遇した関東大震災における自警団と称する者たちの粗暴さ、二・二六事件の青年将校らの未熟、戦争期における軍人、政治家たちの言葉の皮相さに対する忿怒が、日本の未来を案じ、それゆえ過去にこだわり、過去から未来の像を紡ぎ出すというテーゼを生み出す。そのためには古典を学び直す国文学と民俗学の必要性に辿りつく。(10・25刊、二五六頁・本体八二〇円・中公新書)