『清張鉄道1万3500キロ』 赤塚隆二著

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清張鉄道1万3500キロ

『清張鉄道1万3500キロ』

著者
赤塚 隆二 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163907239
発売日
2017/11/10
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『清張鉄道1万3500キロ』 赤塚隆二著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 著者の赤塚さんは、二〇一三年四月にJR全線を乗りつぶした筋金入りの乗り鉄(実車する鉄道愛好家)である。松本清張との最初の出会いは映画『点と線』。小学校四年生のときだったそうだ。長じて清張作品をよく読むようになり、作中に登場する日本各地の風景を自分でも見たいと思うようになった。絵葉書的な景色ではなく、様々な場所で働く人々が背景にいるところを。こうして「松本清張を読む乗り鉄」の「完乗」を目指す旅が始まった。本書はその旅と研究の記録だ。

 一読、参りました! 松本清張の築いた巨大な山脈のような作品群を「ストーリー展開によって移動してゆく登場人物たちを乗せる」鉄道を指針に分類・分析するなんて、今まで誰も考えつかなかった。著者は独自の「初乗り」ルールを規定して作品を選んでいるので、名作・有名作も小品も、社会派の力作もロマン・サスペンスも私小説的作品も分け隔てなく並べられ、それが作品研究に新しい視点を与えている。たとえば、同時期に連載されていた複数の作品で登場人物たちがどこへどのように移動してゆくかを照らし合わせてゆくだけで、当時の清張さんの好みや指向、創作と取材の微妙なバランスまで透けて見えてくる。これは従来の作品研究では見えなかった「点と線」だ。

 松本清張が国民的人気作家になったのは、社会問題や時事問題を多く取り上げたからではない。その時々のこの国の姿や庶民の心の有り様を的確にとらえて作中に描いたからだ。経済発展によって拡大してゆく鉄路、車窓からの眺めの変遷、駅前の活況や衰退、「旅する」こと自体の意味の変化。それらを背景に、善男善女になりきれない登場人物たちが織りなすドラマが清張ミステリーなのだ――と噛(か)みしめつつ、ひょいと裏表紙を見ると、「あ、コンニチハ」という感じの装丁も楽しい。

 ◇あかつか・りゅうじ=1948年福岡市生まれ。朝日新聞山口総局長などを経て2009年退職。本書が初の著書。

 文芸春秋 1500円

読売新聞
2017年12月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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