『生と死と祈りの美術』 細田あや子著

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『生と死と祈りの美術』 細田あや子著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 西欧中世のキリスト教と同時代の日本の仏教。およそかけ離れた文化と思われる二つの地域の宗教美術に、絶壁にぶらさがる男、男がとりすがる木もしくは綱をかじる二匹の鼠(ねずみ)、と同じ題材が登場している。古代インドで生まれた、人生のはかなさを説く寓話(ぐうわ)が、東西へと遠く伝わったのであった。

 著者はこの驚くべき事実について、作品例を大量に引きながら検証する。キリスト教美術の研究で知られる美術史家が、今度は日本の宗教美術も視野に入れ、壮大な比較の試みにふみだした。そこから共通に浮かびあがるのは、死後の世界との関わりで人生のなりゆきを評価し、彼岸における救いを求めようとする願いである。

 キリスト教は、教義として現世と来世との断絶を強調する。だが中世の民衆教化のための絵画や彫刻では、その連続性を示す図像に変容している。浄土へ至る道を図示する日本の仏教画に似てくるのである。異なる信仰を抱いた人々どうしが、同じような情景に憧れること。そこに、まさしく切実に求めるものの普遍性が姿を現している。

 三弥井書店 5800円

読売新聞
2017年12月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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