<東北の本棚>コーヒーを生活の中に
[レビュアー] 河北新報
一口にコーヒーと言っても、有名銘柄、希少な産地や農園の高級品から、コンビニエンスストアのドリップ式、果てはインスタントに缶飲料まで幅広く、それだけ日常生活に浸透した飲み物の一つだろう。
あまりにも身近すぎて、誤解や曲解がまことしやかに語られ、扱われ、提供され、飲まれている現状を著者は嘆く。正しい情報を正確に伝えようと、今年3月末まで約5年半にわたって河北新報社の会員制交流サイト(SNS)でつづってきたブログを本書にまとめた。
著者は1973年、仙台市内に喫茶店「ろじーな」を開店し、現在はコーヒー豆焙煎(ばいせん)を専門に行う店のマスター宮嶋克雄さん。40年以上にわたる経験と知識から引き出された独自のコーヒー物語は、重厚かつ詳細。時に業界に対してストレートにもの申す筆致も痛快で、ブログを通して全国各地から業界関係者が店を訪れている。
「コーヒーの現状」「飲用の歴史」「栽培史」「コーヒーとは?」「煎(い)る」「挽(ひ)く」「淹(い)れる」「楽しむ」の計8章構成。歴史に始まり、流通の仕組みや業界の思惑など関係者ならではの視点を織り込んだ。生豆選びから焙煎、抽出までの過程を論理的に説明し、おいしいコーヒーを作り出して飲むことを追究している。
著者が思い描く理想のコーヒーは、個人がその都度豆を煎って淹れて香味を楽しむ「生活の中のコーヒー」という。付加価値を高めて提供している「カフェのコーヒー」のアンチテーゼといえる。抽出後、最初に立ち上ってくる最良のかぐわしさ「トップノート」を自宅で実現してほしいと願うマスターの思いが詰まっている。
金港堂出版部022(397)7682=1296円。