ホワイトラビット 伊坂幸太郎 著

レビュー

6
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ホワイトラビット

『ホワイトラビット』

著者
伊坂 幸太郎 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784104596072
発売日
2017/09/22
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ホワイトラビット 伊坂幸太郎 著

[レビュアー] 千野帽子(エッセイスト)

◆重なる偶然に新鮮な驚き

 伊坂幸太郎さんの最新作『ホワイトラビット』について書くとなると、いわゆる「ネタバレ」問題が悩ましい。約二百六十ページとコンパクトなこの小説では、数ページから十ページくらいに一度の頻度で、「え? いまのなに? どうしてそうなるの?」というサプライズが仕掛けられている。どこまで書いていいか、どこから伏せておくべきか、迷いながらこの文を書いている。

 この小説が物語るのは、仙台で起こった人質立てこもり事件の顛末(てんまつ)だ。その背後に、営利誘拐を目的とする集団の存在がある(これは最初の数ページに書いてあることなので、ここで書いても怒られないと思う)。立てこもり事件の人質はある一家なのだが、事件が発生したそのとき、この一家もまたイレギュラーな事態に陥っていた。なんという偶然。

 そうです。偶然。この小説は偶然について書かれた小説なんです。僕はそういう驚きが好きだけど、現代日本の読者の多くは、作中で大きな偶然が重なることをご都合主義と呼んで嫌う傾向があるのは知っている。

 でも『ホワイトラビット』は、作者の周到な語りの戦略によって、人質一家に降り掛かる複数の偶然を、爽やかに読者の肚(はら)に落としこんでしまう。

 宮城県警特殊捜査班の、ただならぬ過去を持つ切れ者・夏之目課長と、伊坂幸太郎の某人気作品の某人気キャラとの邂逅(かいこう)がスリリングだ。そして、まるで十九世紀の小説のように、出しゃばりな語り手が登場人物の行為を批評する。しかし、そこで生まれるひりひりした笑いと新鮮な驚きは、二十一世紀のコンテンツならではのものだ。

 オリオン座と『レ・ミゼラブル』が作中あまりに何度も言及されるせいで、小説の舞台がちょっと不思議な異世界、『不思議の国のアリス』の不思議の国じみた世界に見えてくる。と書いて思い出した。『不思議の国のアリス』は白い兎(うさぎ)(ホワイトラビット)の走りから始まるのだった。

(新潮社・1512円)

<いさか・こうたろう> 1971年生まれ。作家。著書『AX』『重力ピエロ』など。

◆もう1冊

 千野帽子著『人はなぜ物語を求めるのか』(ちくまプリマー新書)。人生を物語として認識したがる人間の心理と思考に迫る。

中日新聞 東京新聞
2017年12月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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