【聞きたい。】磯崎憲一郎さん 『鳥獣戯画』 受け身でいる覚悟と強さ

インタビュー

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鳥獣戯画

『鳥獣戯画』

著者
磯崎 憲一郎 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062208079
発売日
2017/10/31
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】磯崎憲一郎さん 『鳥獣戯画』 受け身でいる覚悟と強さ

[文] 産経新聞社


磯崎憲一郎さん

 擬人化したカエルやウサギが遊ぶ様子などが描かれた「鳥獣戯画」。タイトルは、ユーモラスな風合いもある国宝絵巻に由来する。

 「『鳥獣戯画』には甲乙丙丁という4つの巻があって、巻が進むにつれタッチは変わり、違う動物や人間が出てくる。同じようにして、全然違う話を語りの力だけでつないでいく小説ができないかな、と」

 30年近く勤めた会社を辞めた小説家の「私」。自由を手にした記念すべき日、古びた喫茶店にいた「私」は、自分が出演したテレビ番組を見たという美しい女優に話しかけられる。初対面の女優となぜか京都にまで行き「鳥獣戯画」を目にすることになった「私」は、鎌倉時代の僧、明恵上人(みょうえしょうにん)に思いをめぐらす。

 話は迂回(うかい)し、女優の苦い結婚生活が語られ、明恵の生涯も追う。10代の「私」の友情や恋も…。時空を超えた挿話は脈絡がなさそうだが、時々のしがらみに悩む姿は共通している。「人は今自分が直面している現実こそ過酷だと思いがちだけれど、何百年前にも現代人と同じように悩んでいる人はいた。そうやって、世界は続いていく」

 「私」という一人称に立脚しつつも、立ち上がってくるのは狭苦しい自我を突きはなすようなおおらかな境地。〈「自分ではどうすることもできない」事態として、恋愛は始まり、終わる〉。かつての恋人を思い起こす「私」のそんな言葉が象徴的だ。

 「語り手は終始受動的ですよね。でも、それは何か肯定的な力に自分を委ねる『覚悟』を示しているとも言える。受け身である自分が一番強く、揺るぎない、という気がするんです」

 デビューから10年。2年前に大手商社を退社し、大学で文学を講じながら執筆する。「生活は変わっても気持ちは変わらないですね」。小説の自由、そして可能性をとことん追い求めるつもりだ。(講談社・2000円+税)

 海老沢類

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【プロフィル】磯崎憲一郎

 いそざき・けんいちろう 昭和40年、千葉県生まれ。平成19年にデビューし21年に「終の住処」で芥川賞。『赤の他人の瓜二つ』でドゥマゴ文学賞、『往古来今』で泉鏡花賞。ほかの著書に『電車道』など。

産経新聞
2017年12月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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