ミステリ新人賞出身ではないが、注目の書き手――櫛木理宇ほか

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク
  • 死刑にいたる病
  • 今だけのあの子
  • カラヴィンカ

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ミステリ新人賞出身ではないが、注目の書き手

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 地味な学生生活を送る筧井雅也のもとに一通の手紙が届く。差出人は故郷の知人であり、今は連続殺人を犯して拘置所にいる榛村大和だ。立件された九件のうち一件の冤罪を証明してほしいと頼まれた雅也は、大和とその周囲を調べ始める―。櫛木理宇の『死刑にいたる病』(『チェインドッグ』改題)は、シリアルキラーに魅せられる青年の危うさと、事件の背後のむごい事実を、緊張感を持って描き切るミステリ長篇。著者は二〇一二年にライトな学園ホラー『ホーンテッド・キャンパス』(角川ホラー文庫)で日本ホラー小説大賞・読者賞を受賞してデビュー、同年、少女たちのダークな物語『赤と白』(集英社文庫)で小説すばる新人賞を受賞。つまりはミステリの新人賞出身ではないが、このジャンルを含めた新たなエンターテインメントの書き手として注目だ。

 そうしたタイプの作家は他にもいる。芦沢央は二〇一二年、『罪の余白』(角川文庫)で野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。今年文庫化された『今だけのあの子』(創元推理文庫)は女同士の友情を扱うミステリ短篇集だ。大切な友人が自分を結婚式に呼ばない理由。亡くなった少女の自宅で、故人の親友と幼馴染みが繰り広げる心理戦。ママ友の家で、娘が描いた絵が紛失した出来事の真相。老人ホームで暮らす婦人がかぎつける、隣室の女性と嫁の確執めいた何か……。どれもハッとさせられる展開だが、隠された思いや友情に気づかされ、読後感はとてもよい。

『月桃夜』(新潮文庫nex)で日本ファンタジーノベル大賞の大賞を受賞してデビューした遠田潤子も、ミステリタッチの作品を多く発表している。『カラヴィンカ』(角川文庫、『鳴いて血を吐く』改題)は、人気歌手・実菓子のインタビュアーに指名された売れないギタリスト・多聞が主人公。実は二人は幼少期を共に過ごした仲で、実菓子は多聞の死んだ父、そして兄の元妻で……と、意外な事実が少しずつ明かされて読者を翻弄する。やがて想像を絶する愛憎が浮かび上がる怪作だ。

新潮社 週刊新潮
2017年12月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク