久本雅美が明かすビートたけしの優しい一面「愛犬が死んでしまった友人に……」

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アナログ

『アナログ』

著者
ビートたけし, 1947-
出版社
新潮社
ISBN
9784103812227
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

男と女が最後に行きつく場所 久本雅美

[レビュアー] 久本雅美

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久本雅美

 ビートたけしさんは私にとっては神様みたいな人なんです。いわば雲の上の存在ですよね。初めてお会いしたのは、私がこの仕事をはじめてすぐでした。それ以降『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』のレポーターをやらせていただいたり、バラエティのゲストとして呼んでいただいたり……もうかれこれ30年以上経つんですね。
 たけしさんって本当に、本当に優しい方なんです。ある時ご一緒させていただいた番組で、私がたけしさんにツッコんだらちょっと笑いが起きた場面があったんです。その番組の収録後、廊下の向こう側から歩いて来たたけしさんが、通りすがりに「ありがとな」っておっしゃられて……なんて謙虚で、大きな人間なんだろうと思いました。

■たけしの優しい配慮

 お仕事をご一緒させていただくだけでもテンションが上がるのに、5年ほど前からたまにお食事に連れて行っていただくようになりました。実は私の大親友の岸本加世子さんも“たけしさん命”の人で、だいたい2人でたけしさんとお会いしますね。彼女は北野映画に何度も出演しているんですけど、携帯の待ち受け画面がたけしさんなんです。あんた女優じゃなくてファンのおばちゃんか!って(笑)。そういえばこんなこともありました。加世子さんの愛犬が死んでしまったとき、慰めようと思って食事に誘ったんです。そこにたけしさんもサプライズで来てくださったんですが、ご飯を食べ終わった頃、おもむろに亡くなったワンちゃんと同じ犬種の写真をぽん、と出されたんです。「これ、明日から加世子ちゃんの犬だから。ちゃんと訓練もさせたから」って。男前ですよね。加世子さんも感動して号泣していたんですが、後日たけしさんがテレビでその話をされているのを見たら、「岸本加世子があんまり泣くんで、愛人の手切れ金みたいになっちゃったよ」って(笑)。照れ隠しもあると思うんですが、ちゃんと笑いにしてるんです。さすがたけしさんだなぁって二重に驚きましたね。

 私が仕事で悩んだ時、たけしさんに相談させていただいたこともありました。不躾ではあるんですけど、「女のお笑いにとって何が一番大事なんですか」って聞いてみたんです。そうしたら「女であることと、女を捨てること。その振り幅が大きいほど面白くなるよ」っておっしゃったんですね。今でこそ女のお笑いに対する許容範囲も広がってきましたけど、そのたけしさんの言葉にどんなに励まされたか分かりません。


『アナログ』で大人の純愛を描いた、ビートたけし

■登場人物に愛がある

 そういうご本人のブレない愛情深さや義理堅さは、たけしさんの作品にも通じていると思います。『アナログ』も登場人物一人一人に、作者の愛を感じますよね。たけしさんの描く人間って、飾らないんです。普段はくだらないことや下ネタばかり言っていたり、ちょっと引くくらいズカズカ踏み込んでくる人物でも(笑)、その歪さが人間の面白みであり温かさなんだというのを、読んでいて感じます。

 私は主人公の男の子にもキュンキュンきましたね。本当は連絡先を聞きたいのに、女性が「そういうのはナシにしましょう」って言ったら「ハイ」って素直に引き下がっちゃうところとか(笑)。徹夜明けでボサボサの髪のまま会いに来たり、自分の一週間にあったことを全部話したり。不器用かもしれないけど、私はそれだけで愛を感じます。一生懸命って、とても可愛いですよね。たけしさんが昔、女性に求めるものは「母であり姉であり妹であり」っておっしゃったんですけど、この主人公もそうかもしれないですね。彼女に対して、お母さんのように甘えたり、姉のように慕ったり、妹のように心配したり。もしかしたら悟はたけしさんそのものかもしれないなぁ、なんて読みながら思いました。男と女って、最終的に一緒にいることが自然な相手を求めると思うんです。『アナログ』の中にも、男女が一緒にいる最大の理由は体の相性じゃなくて「やっぱり考え方がお互いに合うからだろ」っていうセリフがありますよね。たけしさんの価値観はそこに尽きんじゃないかと思います。私自身も、最初は自分にないものを相手が持っていると感動するんです。だけど最後に行きつくのは、やっぱり居心地のいい人だなと最近感じますね。

■映像化希望!出演希望!

『アナログ』の映像化も観てみたいなあ。柴田理恵とよく「キャスティング委員会」っていうのをやっているんです。妄想の中で配役をペチャクチャお喋りしてるだけなんですけど。年齢はちょっと設定より上だけど、悟のイメージは私の中で堺雅人さん、みゆきは吉田羊さん。どちらの役も大人の品や深みを感じさせる役者さんがいいなぁ、なんて勝手に考えて楽しんでいます。そして今回なんと作中に「久本雅美みたいな」デリヘル嬢が登場しているじゃありませんか(笑)! もうね、私の生涯の誇りですよ。たけしさんが小説に私の名前を出してくださったなんて、超嬉しいですもん。書くときに私を思い出してくださったことに感謝ですね。もちろん映画化されたら絶対に出たいですよ! もう自分の中で役作りも完璧なんです。ちょっと聞いてもらっていいですか? まず髪の毛はソバージュで、濃〜い赤い口紅塗って網タイツ履いて、胸にはパッドを入れる予定です。それで悟からもらった2万円を「フンっ」って感じで胸元にしまうんですけど、そのときパッドがずり落ちゃうの。慌ててパッド拾いながらも、デリヘルの誇りは忘れてないから「もう何よあの男!」って最後に捨て台詞を吐いて、出番終わり。万が一キャスティングされたら監督にアイディアをガンガン出そうと思って、今から準備しているんです(笑)。

Book Bang編集部
2017年12月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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