『だから、居場所が欲しかった。』 水谷竹秀著

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だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人

『だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人』

著者
水谷 竹秀 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087816334
発売日
2017/09/26
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『だから、居場所が欲しかった。』 水谷竹秀著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

タイに流れ、揺れる心

 登場人物たちの語る茫漠(ぼうばく)とも言える思いが、言葉で表現し難い日本社会の閉塞(へいそく)感を不意に照らし出す。このルポルタージュを読みながら、その一瞬一瞬に何度もはっとさせられた。

 タイ・バンコクの高層ビルの一角に、多数の日本人の働くコールセンターがある。日本の大手メーカーなどが国内の電話対応業務を海外移転したもので、年齢層は30代半ばから40代が中心。月給は3万バーツ(約10万円)ほど、英語やタイ語のスキルは必要ない。同地で働く日本人の中では「最底辺」の待遇だが、贅沢(ぜいたく)をしなければ暮らしていけるという。

 本書はフィリピン在住の著者がそこにいる日本人オペレーターに会い、これまでの経緯や思いを聞き取った一冊だ。

 現地の風俗にはまった末にゴーゴーボーイの子を身籠った女性、派遣切り、家族を連れての夜逃げ、LGBTの男女……。

 就職氷河期の時代、日本の労働市場のなかに居場所を見出(みいだ)せず、押し出されるようにバンコクへ流れ着いた人が多い。また、5年にわたる取材が一人ひとりの人生のその間の「変化」をも捉えており、複雑に揺れる心境が徐々に見え始める様子に引き込まれる。

 彼らと同世代の著者は日本を離れた後、『日本を捨てた男たち』などでフィリピンに生きる邦人のリアルな姿を描いてきた。自らと相手との距離を意識しつつ、その著者がときに突き動かされるように寄せてしまう共感が心に迫る。そうして吐露される「かつての若者たち」の不安と安堵(あんど)、焦りと気楽さの入り混じった言葉に触れていると、「希望」を得るために走り続ける日々に疲れた人々が、立ち止まって生きることを許されたと感じた場所――それがこのバンコクだったのかもしれない、と思う。

 その群像にそっと光を当て、日本社会の一つの側面を浮かび上がらせようとした問題意識に、深く切実な印象を受ける作品だ。

 ◇みずたに・たけひで=1975年三重生まれ。ノンフィクションライター。新聞記者、カメラマンを経てフリー。

 集英社 1600円

読売新聞
2017年12月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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