『カラヴァッジョの秘密』 コスタンティーノ・ドラッツィオ著

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カラヴァッジョの秘密

『カラヴァッジョの秘密』

著者
コスタンティーノ・ドラッツィオ [著]/上野 真弓 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784309255842
発売日
2017/10/27
価格
2,592円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『カラヴァッジョの秘密』 コスタンティーノ・ドラッツィオ著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

波乱の生涯描く決定版

 既に十分すぎるほどのオマージュを集めてきたカラヴァッジョ。17世紀以降の西洋絵画に絶大な影響を与えた稀有(けう)な天才について、今更何かを書き加えることがあるのだろうか。そう思う人はぜひ本書を紐解(ひもと)いて欲しい。優れた作家が、周知の事実や数多(あまた)の論及、古くからの評伝や長大な解説書など膨大な文献の中から、まるで魔法のように明確な輪郭を持ったシンプルで読みやすいコンパクトな物語を紡ぎ出すのを見れば、感嘆する他はない。カラヴァッジョの波乱に満ちた生涯を描いた決定版の登場である。

 著述方法もシンプルだ。生誕から死亡までカラヴァッジョの人生を時系列で辿(たど)っていく。絵画の解説も然(しか)り、同様に時系列だ。それなのに、なぜ、読んでいてこんなにもワクワクするのか。なぜ、ページを繰るのがもどかしく感じるのか。なぜ、カラヴァッジョを身近に感じ、なぜ彼の絵画の理解者になった気がするのか。すべては、熟達した素晴らしいペンの力なのだ。

 カラヴァッジョは、何よりも不朽の名声を求めていたが、時代は反宗教改革のうねりの中にあった。ルネッサンスの巨匠たちの模倣から出発したダルピーノのマニエリスム。カラッチの崇高な理想主義。カラヴァッジョはたった一人で「自然のまま」を模倣する第三の道を切り開き瞬く間に成功への階段を登り始める。ローマの上流階級は競って彼の絵を欲しがり大金を投じた。そのお金は何に使われたのか。「ロレートの聖母」のモデルは馴染(なじ)みの娼婦(しょうふ)。絶頂期に殺人事件に巻き込まれたカラヴァッジョはナポリへマルタへと逃亡する。庇護(ひご)者のネットワークが逃亡を助ける。そして逃亡先でも多くの傑作をものにした。生涯、弟子を持つことはなかったが、模倣者(カラヴァッジェスキ)の群れが彼の芸術を永遠の高みに持ち上げた。著者はレオナルド・ダ・ヴィンチの評伝も書いているが、このシリーズは新しいヴァザーリ(著名な画人伝の著者)の誕生を予感させる。上野真弓訳。

 ◇Costantino D’Orazio=1974年生まれ。美術史家、随筆家。ローマ現代アート美術館の展覧会キュレーター。

 河出書房新社 2400円

読売新聞
2017年12月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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