毒が妙に後を引く「婚活」ミステリー

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婚活中毒

『婚活中毒』

著者
秋吉理香子 [著]
出版社
実業之日本社
ISBN
9784408537115
発売日
2017/12/08
価格
1,430円(税込)

毒が妙に後を引く「婚活」ミステリー

[レビュアー] 藤田香織(書評家・評論家)

『暗黒女子』『絶対正義』そして『婚活中毒』。秋吉理香子の四文字タイトルにハズレなし!

『婚活中毒』、である。
「婚活」という二文字だけでも、そこはかとなく「取扱注意」感が漂っているのに、加えて「中毒」。しかも著者は秋吉理香子、だ。
 二〇一三年に刊行されたデビュー第二作目の『暗黒女子』は、私立のお嬢様学校に通う選ばれし乙女たちが、文学サークルの会長の死を巡り互いを糾弾し合う、最強最恐とことん黒い女子ミスで、一気に作者の名を広めるブレイク作となった。更に二〇一六年の『絶対正義』は、アラフォーになった高校時代の仲間四人の元へ、死んだはずの(言い換えれば殺したはずの)元優等生から謎の招待状が届くことから動き出す長編作で、「絶対的な正義」という素晴らしく嫌らしいタイトルがたまらなく効いていたことを思い出す。
 そこへきての『婚活中毒』、なのである。なかには、まだ著者の小説を読んだことはないけれど、本書のタイトルには興味を惹かれるという人もいるかもしれないが、最初に断言してしまおう。
 秋吉理香子の四文字タイトルにハズレなし!
 秘めたるヤジウマ心が満たされるだけでなくぴりっと痺れる毒が妙に後を引く、本書は実に心にくい刺激作だ。

そこに罠があると分っているのにまんまとはまる四話のミステリー

 収められている四話は、タイトルが示すとおり、いずれも「結婚相手を見つけるための積極的な活動」がテーマとなっている。
 第一話「理想の男」では、四十歳を目前に控えた女性が、一念発起し地元の小さな結婚相談所に足を運ぶ。三年間交際した恋人から一方的な別れを告げられた沙織は、過疎化の進むかつてのニュータウンに事務所を構える「フェイト」に入会するなり、かなりの好条件な男性=杉下を紹介された。容姿も勤務先も年齢も収入も申し分ない。実際に会ってみると写真より更に魅力的で、相手も自分を気に入ってくれた様子。浮き足立つ沙織だったが、一方で疑問も頭をもたげてくる。これほどの人がどうして今まで独りだったのか。聞けば「フェイト」の会員になってから三年、これまでに三人の女性を紹介してもらい付き合ってみたが、縁がなかったと言う。
 すっかり杉下に魅了された沙織は、どうしても結婚にこぎ着けたいという一心で、彼と別れた女性たちに話を聞いてみようと思い立つ。しかし、素性を突き止めてみると、三人は皆、既にこの世を去っていたことが判明した――。
 となれば、圭介に何か後ろ暗いことがあるのではないか、と、沙織でなくとも疑うだろう。三年の間に交際した相手が全て死んでいるなんて、とても偶然とは思えない。事故死と自殺、ということになってはいるが、もしや杉下が殺した? いやいやそんな。でも、だけど。ようやく巡り会えた運命の人が連続殺人犯かもしれないと沙織は動揺し、そんな分りやすい展開だろうかと読者も揺れる。そこへ突きつけられる真相の衝撃には、思わず唸り声を漏らしてしまった。
 主人公たちが、街コン、テレビのお見合い番組、親同士の代理婚活に挑む他三話にも、そうしたミステリー的仕掛けが施されていて、そこに罠がある、と分っているのにまんまとはまる「してやられた感」をたっぷり嚙みしめることになる。特に日本推理作家協会賞(短編部門)の候補作にも挙げられた「リケジョの婚活」は、口元が歪むようなビターテイストで、にもかかわらず「あぁうまい」、と呟いてしまう、エスプレッソのような後味が印象的だ。

我が身を重ねると見えてくる自分の本性に恐怖倍増!?

 しかし、本書の醍醐味は、そうしたサプライズやどんでん返しの楽しさだけに限らない。
「婚活」という極めて個人的な舞台には、一方で世間一般の共通認識がある。女は若いほうがいい。家庭的で温厚で清楚系美人なら最高。男の年収と身長は高いほうがいい。ハゲでもデブでもなく親と同居じゃなければ上々。恐らく世の中的には、そうした査定基準をばかばかしいと思いつつも、ばっさり切り捨てることはできない、という人が大半だろう。個人的な話で恐縮だが、バツイチ四十九歳の私にだって結婚ともなれば譲れない相手の条件はあるのだ。二十代三十代の未婚者であれば、ないはずがない。
 一方で、ライバルたちを蹴散らし、運命を引き寄せ結婚というゴールへ持ち込むためには、当然、戦略だって必要だ。自分はどんな武器を持っているのか。友軍は期待できるのか。どこで仕掛けるか、それとも手を引くか、人生をかけるといっても過言ではない大勝負の決断を迫られる各話の主人公たちに、我が身を重ね読み進むうち、次第に自分の「素」も見えてきてしまう。自分のなかにある本音と建て前、理想と現実、計算と打算が暴かれるのだ。恐ろしい。実に恐ろしいことではないか。
 仕掛けられていることが自明な罠にまんまとはまる快感と、突きつけられる恐怖(個人差があります)。秋吉理香子の中毒性の高さを再認識せずにはいられない作品だ。

J-enta
2017年12月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

実業之日本社

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