仕事のクオリティを上げる「超・集中状態」を作るには?

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仕事のクオリティを上げる「超・集中状態」を作るには?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

なぜ、あの人の仕事はいつも早く終わるのか?―最高のパフォーマンスを発揮する「超・集中状態」』(井上裕之著、きずな出版)の著者は、北海道の帯広で歯科医院を経営している歯学博士。しかしその一方、60冊以上の本を出版している作家としての肩書きも持っています。

ジャンルも異なる2つの仕事をこなしているとは、想像しただけでも大変そうです。ところが現実的には、どちらの仕事も高いレベルでこなせているというのです。信じられないような話ですが、つまりはその秘密が、本書で明かされている「集中力」だということ。

仕事やプライベートにおける成功は「最高の結果に対して、最大の集中力を発揮できるか否か」で決まります。

結果へと最大の集中でフォーカスした状態を、本書では「長・集中状態」と呼びます。(「Prologue 7日分の仕事を2日で終える『長・集中状態』」より)

著者の場合、「超・集中状態」を使い熟すことにより、他の優秀な歯科医師が7日かけて行う手術件数を、クオリティを一切落とすことなく2日で終えてしまうのだそうです。だからこそ本書を通じて「超・集中状態」を使いこなせるようになれば、究極は「週休5日」も実現できてしまうというのです。

だとすれば、「超・集中状態」について詳しく知りたいところ。そこできょうはChapter 2「パフォーマンスが劇的に上がる『超・集中状態』とは」に注目してみたいと思います。

究極の集中力が、成功への鍵となる

人は極度の集中状態に入ると高いパフォーマンスを発揮できると言われており、そうした状態は「フロー」「ゾーン」と呼ばれているのだそうです。

フローは一定時間、高い集中力を維持している状態。たとえば「朝から企画書づくりに集中していて、お昼ご飯を食べるのを忘れていた」「ミステリー小説を読んでいたらおもしろすぎて、無意識のうちに徹夜で読んでしまった」などは、フローを経験したということだということです。

なにかに没頭し、ふと気がついたら何時間も過ぎていたという状態。その間には、高いレベルのパフォーマンスを発揮できるわけです。周囲の音が聞こえないくらいに没頭した結果、あたかも川が流れるように時間が過ぎ去るため、「flow(フロー=流れ)と呼ぶのだといいます。

対してゾーンは、一点集中型の集中状態。フロー状態のなかの、「極限の集中状態」と位置づけられることもあるのだといいます。ちなみにスポーツの試合などで使われる言葉で、たとえばプロ野球選手がホームランを打ったときに「ボールが止まって見えた」などは、まさにゾーンに入っている状態。

しかしスポーツ選手はともかく、私たちの集中力について考える際には、フローとゾーンの違いを厳密に切り分ける必要はないと著者はいいます。そこで、高いパフォーマンスを発揮できる状態を、フローとゾーンを分けることなく「超・集中状態」と呼んでいるわけです。(53ページより)

「超・集中状態」が最高の仕事を生み出す

つまり、高いパフォーマンスを発揮できたのは「超・集中状態」にあったからだというのが著者の見解。とはいえ実際のところ、集中力はすぐに途切れてしまうものでもあります。では、なぜ集中が続かないのでしょうか?

その理由について著者は、「上司は自分ばかりに仕事を言いつける」「こんな仕事はおもしろみを感じない」「今日中にできる分量じゃない」など、知らず知らずのうちに他責で原因を考えてしまう人が少なくないことを指摘しています。しかしこういう状況では、仕事にかかる前から「どんな仕上がりでも、やっておけば文句がないだろう」という気持ちが生まれてしまっても無理はありません。

大切なのは、「誰にも文句を言われないくらい完璧な仕事をしよう」と考えること。そう思うと、自然と集中力が高まるということです。著者自身も歯科医師として、最高の仕事を目指さないことなど考えられないし、むしろ完璧な仕事をすることが義務だと思っているそうです。そしてそう思った瞬間に集中力が生まれ、「超・集中状態」を維持できるというのです。(56ページより)

ただ淡々と、結果だけにフォーカスする

目標を達成するためにがんばるには当然のこと。仕事で評価されるのはあくまで「結果を出す」ことであり、その仕事の「クオリティの高さ」

たとえば営業マンなら、「1日10人のお客さまに会う」というように、営業機会をできるだけ多く設けることが「がんばり」だということになるでしょう。そして、それによって「1000万円の売上になった」「お客さまとの絆を深くし、新しい注文をいただいた」などが「結果」だということです。

いうまでもなく、この結果の数値によって自分の評価が決まるのがビジネス。しかし著者は、「絶対に結果を出すのだ」という強い思いによって沸き起こるがんばりが、結果に大きな影響を及ぼすと考えているのだといいます。

ただ、「成功したい」と思っていたとしても、そのためにすべき行為を「恥ずかしい」「遠慮する」と感じてしまうことはあるものです。いわば、感情が邪魔をしてしまうわけです。そしてその結果、やるべきことに集中していない状態になってしまうということ。

しかし、「恥ずかしい」「遠慮する」といった感情は、「超・集中状態」に入る際にもっとも邪魔になるもののひとつだといいます。逆にいえば、「得たい結果のためならどんなことでもする」という覚悟が、集中へのトリガーになるという考え方です。(60ページより)

強制的に「超・集中状態」に入るテクニック

プロアスリートは意識して「超・集中状態」に入れるのでしょうが、私たちビジネスの世界にいる人間はどうでしょうか? このことについて著者は、仕事に対する「使命感」が強ければ、「超・集中状態」に入ることができると考えているのだそうです。

「使命感」に燃える仕事はやり遂げると満足度が高く、多くの場合、収入や名誉にもつながるものだという考え方。それを知っているからこそ、読者にもそういう仕事をしてもらいたいと訴えているのです。

私が再三、「一流を目指しましょう」「最高の仕事をしましょう」と強調するのは、人は「一流」「最高」を目の前にすると強い使命感が生まれ、自然と集中力が高まり、取り組む姿勢が違ってくるからです。(81ページより)

すると当然、いい結果が出ることに。そしていい結果が出れば、また「一流」「最高」の仕事が回ってきて、それに伴い収入も上がっていくということ。しかし、そうはいっても、自然と「超・集中状態」に入れることはまれであるはず。そこで、自分で意図して「超・集中状態」をつくり出したいのであれば、「使命感を持てる仕事を選ぶ」ことが第一だというのです。(79ページより)

「試合に勝つために、とんかつを食べる」はやめなさい

ただし、「超・集中状態」で仕事をはじめても、すぐに集中力が切れてしまったのでは無意味。そこで、仕事をしている間、集中を妨げる原因を取り除くことも重要なのだと著者は主張しています。

まず大切なのは準備。本番に向けて然り準備し、繰り返しシミュレーションしておけば、本番で集中力を切らすことはないわけです。それから本番中は、集中力に悪い影響を与えるものも排除すべき。そのことを説明するうえで、著者は2日間で15名のインプラント治療をしたときのことを引き合いに出しています。

15名は初めての経験です。

しかし、いつもと変わらない時間に起きて、同じような朝食を取り、医院に入ります。特別な日だからといって、特別な食事をとることはありません。

よく、アスリートが試合に勝つために、とんかつなどを食べる縁起担ぎがあります。

しかしビジネスパーソンがそれをマネするのはどうでしょうか。

いつもと同じ過ごし方のほうが「超・集中状態」に入りやすいと私は思います。(83ページより)

また、手術と手術の間にあるインターバルの過ごし方にも気をつけたのだとか。大人数の手術を実施するときは、他の歯科医師や企業の人たちが見学に訪れるので、その対応をすることが集中を妨げると考えたのだそうです。

そこで、あえて見学者とコミュニケーションはとらず、スタッフにすべての対応を任せ、手術がひとつ終わるごとに自分の部屋に入るなどして外部との接触を絶ったというのです。

これは、ビジネスパーソンにも応用できることだと著者は主張しています。オフィスで仕事をしていると、上司に呼ばれて仕事のことを聞かれたり、同僚から飲み会の誘いを受けたりすることもしばしば。しかしそれでは集中力を保ちながら仕事することは困難になるでしょう。そこで、ある一定時間、「超・集中状態」を保つために、周囲との接触を断つ環境をつくることも大切だということです。(82ページより)

歯科医師としての仕事と作家としての活動、双方を並行させる著者自身の体験談も豊富に盛り込まれているため、とてもわかりやすい内容。「超・集中状態」を自分のものにするために、読んで見てはいかがでしょうか?

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2017年12月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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