『欧州統合は行きすぎたのか 上・下』 G・マヨーネ著

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『欧州統合は行きすぎたのか 上・下』 G・マヨーネ著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

 「世界経済の政治的トリレンマ」と呼ばれる概念がある。「国際経済統合=超グローバリゼーション」と「国民国家」と「民主主義」は多くてもこの三つの要素の二つしか同時にはなしえないというものだ。EUによる欧州統合と単一通貨ユーロという壮大な実験は、一見、このトリレンマを解決したように見えた。しかし、ギリシャ危機やブレグジット(英国の離脱決定)により、こうした楽観論には懐疑の目が向けられるようになった。本書は、EUの抱える様々な問題を10章に分けて多面的な切り口から詳細に論じ、その未来を指し示した好著である。

 なぜ、EUは躓(つまず)いたのか。2013年に行われた調査によれば、EUを領導するドイツでさえ58%がEU加盟を利益よりむしろ障害と考えており、主要6か国におけるインタビューでは29%しか欧州諸機関に対して肯定的な意見を持っていない。これほど否定的な見方がかくも広く共有されるようになったのはなぜか。著者は原因を「モネ方式」に求める。それは、欧州統合というある意味曖昧な理想を疑わず、政治エリートが超国家機関の創設などの制度構築によるプロセスを重視して既成事実を積み上げる統合手法であったが、成果の乏しさあるいは凡庸さに市民が気づいて懐疑派が台頭してきたというわけである。これに対し、統合推進派は「EUの関与の拡大(More Europe)」と「二速度式欧州」(段階的統合)で前進を続けようとしている。

 著者は、欧州の繁栄は国民国家の協調と競争の上に築かれたのだから、領域的な統合ではなくアラカルト統合(機能的な統合)を目指すべきと提唱する。根底にあるのはクラブの理論である。クラブとは公共財を提供するために設立された退出可能な連合体であり、単一市場を共通項として各国が政策協調できるクラブ財を購入するのである。一つの卓見であろう。専門書で読みやすい本ではないが、EUとのビジネスを考える上で必読の1冊だ。庄司克宏監訳。

 ◇Giandomenico Majone=1932年生まれ。欧州大学院大名誉教授(公共政策学)。EUの理論研究の大家。

 岩波書店 各3200円

読売新聞
2017年12月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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