デジタルデータでなにが変わる? いまこそ学んでおくべき「リーガルテック」とは

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

リーガルテック

『リーガルテック』

著者
佐々木 隆仁 [著]
出版社
アスコム
ISBN
9784776209720
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

デジタルデータでなにが変わる? いまこそ学んでおくべき「リーガルテック 」とは

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

リーガルテクノロジー(リーガルテック )。

この言葉に敏感に反応する人は、世界の法律業界を知る人たちに限られると思います。リーガルテック とは、法律(リーガル)と技術(テクノロジー)を組み合わせた造語で、法律業務を支援するテクノロジーのことをいいます。

(「はじめに なぜ、いまリーガルテック が注目されているのか?」より)

そう説明する『リーガルテック 』(佐々木隆仁著、アスコム)の著者によれば、近年は法律業務にテクノロジーが欠かせなくなっているのだそうです。理由はいうまでもなく、ITの進化によって、あらゆるデータがデジタル化されてきたから。

メール、チャット、Word、PDF、PowerPointなど、いまやほとんどの情報はデジタル化され、データとして蓄積されています。しかもその量は年々増え続け、IoT(Internet of Things/モノのインターネット)社会が到来すれば、デジタルデータ量はさらに爆発的に増加するはず。

しかし、膨大なデジタルデータのなかから裁判や調査に必要な情報(証拠となる情報)を探し出すのは至難の技でもあります。だからこそ、そのような状況下でリーガルテックが注目されるようになったというのです。事実、最先端を走るアメリカにおいては、法律業務におけるリーガルテックの活用はすでに主流になっているのだとか。

多くの弁護士が「差別化を図るための武器」としてこれを活用しており、いまやリーガルテックを使わなければ法律業務はできないとさえいわれているというのです。

そんな中、我々にとっての問題は、日本が世界から大きく立ち遅れているという事実。弁護士、弁理士、公認会計士、企業の法務担当者、法務省や法務局などの職員といった法律の専門家さえ、リーガルテックについて語れる人はごくわずかだということです。

とはいえ、今後は日本もリーガルテックを知らずには済まされないということは火を見るより明らか。そのことについては著者も、「アメリカと同じようにデジタル情報社会に生きる日本にも、いまアメリカで起きていることが必ず起きる」と断言しています。逆にいえば、デジタルデータの活用を理解していれば、それが自分を守る盾になるということ。そこで、リーガルテック 入門書としての本書に利用価値が生まれるわけです。

しかし、そもそもデジタルデータによって、なにがどう変わるのでしょうか? きょうは第2章「デジタルデータで運命が変わる」から、最も身近なメールや携帯電話についてのいくつかの記述を拾い上げてみたいと思います。

たった1通のメールが運命を変える

リーガルテックが司法の現場で求められるようになった第一の理由は、あらゆる情報がデジタル化されてきたことにあります。メール、音声ファイル、画像ファイル、映像ファイル、人事通達や稟議書などの社内文書、企画書、見積書、請求書などの書類もデジタル化され、社内サーバやクラウド、個人のパソコン、スマホ、タブレットなどあらゆるデバイスに保存されているからです。

それだけではありません。さらにデジタルデータには、客観的な事実を裏づける証拠として重要な価値があることもわかってきたというのです。事実、ニュースで大きく取り上げられるような事件の行方を左右するような存在にもなってきており、たった1通のメールが発端となる場合も少なくないのだといいます。

その典型的な例が、2011年4月に幕を開けたアップルとサムスン電子の知財訴訟です。アップルが、サムスン電子のスマートフォン・ギャラクシーシリーズがiPhoneのデザイン特許を侵害しているとして、カリフォルニアの連邦地裁に提訴。2014年3月にサムスン電子に連邦地裁は、9億3000万ドルの賠償を命じる判決を下すことになりました。

このとき、意匠権に関する陪審員の判断は、グーグルの幹部からサムスン電子の幹部に送られていた、たった1通のメールに大きく影響を受けたと報道されています。

その内容は「ギャラクシーはアップルのiPhoneにあまりに似ているのでデザインを変えたほうがいい」というものでした。このメールによってサムスン電子側はギャラクシーがiPhoneに似ていることを認識していた証拠だと判断されたわけです。(50ページより)

ちなみに、この訴訟のドキュメント量は、証拠開示の対象として3億5200万ファイル、検索回数6000万回、25の法律事務所が対応して75件の訴訟が提起され、4億ページのレポートが作成され、2000回の報告が行われたという、空前の規模の訴訟だったのだそうです。(48ページより)

デジタルデータは消えない

デジタルデータが訴訟の行方を決定的にしたり、操作に貢献したりする事例は増加しているのだと著者は言います。しかし証拠となるデジタルデータは、もちろん偶然発見されるわけではありません。膨大な量のデジタルデータを高速で解析する「デジタルフォレンジック」の技術があったからこそ、証拠として発見されたということです。

そしてデジタルフォレンジック調査においてもっとも重要なのは、消されたと思われるデジタルデータをどこまで復元できるかということ。

いきなり結論を申し上げると、デジタルデータは、どんなに完璧に消去したつもりでも、多くの場合、なんらかの痕跡が残ります。それどころか、専用の復元ソフトウェアを使わなくても、記録媒体に残っていることがよくあります。(54ページより)

たとえばパソコン上でファイルを消去する際には、デスクトップにあるゴミ箱にファイルを入れ、「ゴミ箱を空にする」を選択します。ゴミ箱の容量が0になると完全消去したとように思えてしまうものですが、データはハードディスクから消えないわけです。

なぜならパソコンに記録されている情報は、「ファイル管理情報」「データ本体」と、2種類のデータに分けられて管理されるから。ファイル管理情報は、インプットされた情報がハードディスクのどこにあるかを管理するためのもので、アドレス帳のような役割。ファイルが変更された時期なども、ファイル管理情報として記録されることになります。そしてデータ本体は、インプットされた情報そのもの。これが消えてしまうと、復元は難しくなるわけです。

なぜ、こういうことになるのでしょうか? それは、ファイルをゴミ箱に入れ「ゴミ箱を空にする」という行為は、ファイル管理情報に修正を加え、データがどこにあるかをわからなくしているだけだから。アドレス帳を消すようなものなので、データ本体はハードディスクのどこかに残っているということです。

ハードディスクをクイックフォーマットした場合でも、ファイル管理情報が消去されただけのことで、データ本体は残っているもの。データ本体が上書きされた場合は復元が難しくなりますが、最近のパソコンはハードディスクの容量が大きくなっているので、上書きされずに残っているケースが少なくないといいます、

紙の書類であれば、焼却したり、シュレッダーにかけたりして廃棄することが可能。しかしデジタルデータを完全に消去することは、簡単なようで実はとても時間と手間がかかるということです。(53ページより)

携帯電話の通話記録はずっと消えない

同じように、携帯電話のデータも簡単には消えないもの。内蔵されたメモリチップに保存されている電話の通信履歴、メール、写真、アドレス帳などを消去したと思っても、その時点ではデータは残っているということです。

もちろん、メモリの容量がいっぱいになり、古いデータが新しいデータに上書きされるとデータの復元は困難になります。ただ、携帯電話もパソコンのハードディスクと同じく容量が大きくなっているため、以前よりも上書きされる可能性は低くなったといいます。

自分の携帯電話で通話記録を確認すると、数十件程度しか表示されません。

しかし、リーガルテックの技術を使えば、数千件、数万件という膨大な通話履歴を復元することができます。現在では、携帯電話を購入してからのすべての通話履歴を復元することが可能なことさえあります。(58ページより)

当然のことながら、復元されたデータを分析することで、さまざまなことがわかってきます。たとえば、深夜に特定の異性と長時間の通話履歴が頻繁に残されていれば、相手は関係の深い人物だということが推定できるでしょう。周囲の人間とのやりとりを時系列で追っていくことで、その人間関係を類推することも可能です。

加えて携帯電話は、データがなかなか消せないだけでなく、そのデータを記録するメモリチップが頑丈であることも特徴。踏みつけたり、燃やしたり、海水に浸かったりして携帯電話の機能は使えなくなったとしても、メモリチップは無事だったというケースがよくあるのだそうです。つまり、操作、調査する側にとっては頼もしい存在であるということ。

どうしても携帯電話に保存された証拠データを隠ぺいしたい場合は、携帯電話そのものを溶鉱炉に放り込むなどの物理的な消滅しかないといえるのだそうです。とはいえ、そこでも注意が必要。なぜなら、携帯電話のデータは、メールでも通話履歴でも相手がいるから。

つまり送信者だけでなく、受信者の携帯電話にもデータが残るということ。完璧に証拠を消したいと考えるなら、その2台の携帯電話を物理的に消滅させる必要があるわけです。さらにクラウドサービスでは、事業者のサーバにデータが残っていることもあるでしょう。

デジタル情報社会の到来によって、完全犯罪の可能性は低くなったと著者は言います。特に単独犯ではなく、複数での犯行の際には、なんらかの痕跡が残りやすくなったというのです。決めごとをつくっていたとしても、顔を合わせるにはなにか連絡手段を使わなければなりません。緊急時の連絡方法もあるでしょう。そこで、携帯電話やパソコンなどのデジタル機器を使えば、証拠が残るわけです。

となれば、当然のことながら消去しておくはず。ただし完全に消すことは難しく、残っている限りは証拠となりうる可能性があるということです。そして、このような、消されたと思われるデジタルデータを復元し、真実を探り当てるのもデジタルフォレンジックの技術なのだそうです。(57ページより)

著者は大手コンピューターメーカーを経て起業し、リーガルテクノロジーを中心とした事業を推進しているという人物。つまりはこの分野を熟知しているということで、本書においても平易な文章によってビギナーを無理なく導いてくれます。

リーガルテックに関する知識は必ず必要となるだけに、この機会に本書を通じて学んでおくべきかもしれません。

メディアジーン lifehacker
2017年12月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • このエントリーをはてなブックマークに追加