『社会学の力――最重要概念・命題集』

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社会学の力

『社会学の力』

著者
友枝 敏雄 [編集]/浜 日出夫 [編集]/山田 真茂留 [編集]
出版社
有斐閣
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784641174306
発売日
2017/06/13
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『社会学の力――最重要概念・命題集』

[レビュアー] 友枝敏雄(大阪大学未来戦略機構特任教授)

社会学とは何か

 このたび、浜日出夫氏(慶應義塾大学教授)、山田真茂留氏(早稲田大学教授)との共編で『社会学の力――最重要概念・命題集』という書籍を刊行した。ここでは社会学者としての私の研究経歴のエピソードを織りまぜながら、『社会学の力』を刊行した意図と経緯を記したい。
 私は、今から40年以上も前、学部で社会学を学び、大学院でも社会学を専攻し研究者の道を選んだ。初めて教壇に立って社会学の講義をしてから今年で38年目になる。社会学者として馬齢を重ねてきたが、社会学を学び始めた頃に抱いた「社会学とは何か」という問いに対して、明確な答を出せないまま今日に至っている。
 私が学部生の頃に、社会学の講義で、ある先生は「社会学は間口が広いから、『社会学とは何か』という問いに答えるのは、大変です」と言われた。またあるときに、「こういう研究をやりたいのですが」と別の先生に相談に行ったら、「それは社会学の研究ではないですね」と言われた。
 きわめて個人的な経験にすぎないのだが、これら2つのエピソードには、社会学という学問の性格が明瞭に示されているように思われる。2つのエピソードが示しているのは、端的に言って、「その研究は社会学ではない」と断ずることは容易であるが、「○○こそが社会学の研究である」とポジティブに定義することは、かなり難しいということである。換言すれば「社会学とは何か」という問いは、社会学者に背負わされた永遠の課題であり、一生考え続けなければならない問いということになるであろう。
 社会学には、社会科学もしくは人間科学として一括りにされる他の学問分野と同様に、理論研究の分野と実証研究の分野がある。社会学の理論研究の分野には、さまざまな社会学理論の潮流があり、統一的な理論があるとはいえない。マルチパラダイム状況にあるというのが、社会学理論の現状をもっとも的確にとらえた表現だといえる。実証研究の分野では、社会調査の方法を用いて現実の社会現象・社会問題を解明することが試みられている。社会調査の方法には、量的調査と質的調査の2つがあるが、量的調査の場合には、経済学者、政治学者、心理学者の行う統計調査とどう異なるのかという問題が発生するし、質的調査の場合には、文化人類学者の行うフィールドワークとどう違うのか、さらにはジャーナリストが行うインタビューにもとづく記録とどう違うのかという問題が生じる。しかし多くの社会学者は、経済学、政治学、心理学、文化人類学などの実証研究との違いを自覚しながら研究を行っている。
 ここからわかることは、「社会学は○○である」と大上段に振りかぶって定義しないにしても、社会学者は他の学問分野との違いを意識しながら研究を遂行しているということである。違った言い方をするならば、社会学においては、理論研究はマルチパラダイム状況にあるし、実証研究にも複数の方法があるから、多様な研究がなされている。しかし社会学的な思考および社会学理論の潮流には、共通項と言うべきものがあるということになる。
 この点については、以下に紹介するギデンズとサットンの指摘が示唆的である。彼らは、社会学における中心的(essential)な概念について共通理解があるのかということについて、つぎのように述べている。

何を中心的(essential)な概念と見なすか、という根本的な事柄についてすら意見の違いが生じるのは、社会学においてはよくあることだ。これは主に、理論上の関わり方とパースペクティブの違いから生まれるものである。学者の中で、社会学者はとりわけ論争好きであるが、しかし、そうであっても、彼らも互いに話しあい、理解しあうことはある。なぜ彼らが互いに理解しあえるかといえば、それは長年にわたって増大したり衰退したりしてきた数々の理論と解釈のフレームワークの中から引き出された概念遺産を、皆が共有しているというのが理由の一つなのだ。(Giddens,A.& Sutton,P.W. 2017 :3)

 私たち3名の編者の考えも、「概念遺産を、皆が共有している」というギデンズの考え方と同じである。

概念構成と命題構成

 社会学的思考および社会学理論の潮流を1冊の書籍にまとめるにあたり、概念構成と命題構成という2つの部分を中心にして構成することにした。概念構成とは、対象を的確にとらえた概念を作り出すことであり、命題構成とは、概念間の関連もしくは要因間の関連を明らかにすることである。
 周知の通り、自然科学においては概念構成が問題になることはほとんどない。しかし社会科学においては概念構成の作業こそが重要になってくる。その理由は2つあるが、本書で述べたことを紹介しておこう。

 「第1に、自然現象とは異なって社会現象を一義的に確定することはかなり困難だからである。たとえば家族といえば、日常会話では多くの場合、お互いの了解が働くが、血縁でない人を家族構成員とみなすのか、家族の概念を拡大してペットも家族の一員と考えるのかといったさまざまな問題がすぐに浮かんでくる。また﹁いじめ﹂という社会現象は重要な社会問題であるが、実際には﹁いじめ﹂をどう定義するかは、はなはだ難しいということがある。第2に、これまでになかったような新しい社会現象を的確にとらえる概念が必要だからである。その一例を挙げるならば、社会学の世界で、20世紀後半に確立した概念として、「ジェンダー」と「エスニシティ」がある。「ジェンダー」はフェミニズム運動の中から登場したものであり、生物学的な性差(sex)では説明できない、社会的に作り出された性差もしくは性差別を表現するための概念である。また、グローバル化の趨勢の中で移民労働者の増加および国際結婚の増加によって、従来の人種(race)や民族(ethnic group)には当てはまらないような人々が生ずるようになってきたが、これらの人々および彼/彼女らが抱える社会問題を表現する言葉として、『エスニシティ』が登場してきたのであった。」(『社会学の力』12頁)

 以上から明らかなように、概念構成によって、社会現象の解像度を上げる概念を作り出すことは、現実の社会を的確にとらえることに可能にし、命題構成によって、社会現象の因果関係を定式化することは、社会現象を作動させるメカニズムの解明を可能にするのである。

項目の選定

 3名の編者の、社会学における専門は微妙に異なるが、概念構成と命題構成を中核とする書籍を作成することについては、すんなりと合意することができた。そこで、1冊の書籍のなかに項目数をいくつ収蔵するか、いかなる項目を挙げるかという議論を行った。
 議論の結果、読者にとっつきやすいように導入部分として、社会学の方法について、何項目か設けたのち、概念構成と命題構成を取り上げた方がよいということになり、つぎに示すような3部構成にすることにした。

 第I部 社会学の方法
 第II部 概念構成――概念によって社会をとらえなおす(ミクロ社会学 メゾ社会学 マクロ社会学)
 第III部 命題構成――社会のメカニズムとトレンド(メカニズム トレンド)

 残る作業は項目の選定となった。ここまで作業が進んでくると、あとは「一瀉千里」であった。項目の選定の方針は、きわめてオーソドックスなものであり、社会学的思考および社会学理論の潮流を習得するにあたり、必要不可欠な項目を挙げようということになった。当然のことながら社会学の最近の動向をおさえるように配慮したが、その一方で流行を追うあまり、社会学の歴史的展開における共通遺産であり、かつ現在も生命力を有するものを、落とすことのないように努めた。そのようなものとして選定した項目が、「行為類型」「官僚制と近代組織」「大衆社会」「顕在機能と潜在機能」「機械的連帯から有機的連帯へ」「近代化」などである。
 結局、第Ⅰ部 8項目、第Ⅱ部 34項目、第Ⅲ部 28項目 合計70項目として、1冊の書籍にすることにした。70項目からなる構成が出来上がった瞬間に、社会学を学ぶにあたり必要最低限のものは盛り込まれている、つまり、この書籍を十分に理解すれば社会学という学問の特色はつかめるに違いないという確信を、私たちは持つに至った。と同時に、まだ原稿のまったくない段階で得たこの確信を実現するために、それなりの書籍を作り上げようという決意を新たにした。

『社会学の力』がめざすもの

 社会学の世界には、『社会学の力』に似た書籍として、『命題コレクション 社会学』(作田啓一・井上俊編、筑摩書房)がある。1986年に刊行されており、学部で社会学に関心を持ち学んだ人なら、誰でも知っている不朽の名著である。このたび『社会学の力』を構想するにあたり、「概念」と「命題」というキーワードが出てきたときに、真っ先に思い出したのが『命題コレクション 社会学』であった。不朽の名著を引き合いに出すこと自体、『命題コレクション 社会学』を執筆された方々に失礼かもしれない。しかし率直に記すならば、本書の構想が固まるにつれ、『命題コレクション 社会学』の後継版ということを、本書作成の高い目標の1つにしていたことは事実である。
 また、できるだけ若い社会学研究者に執筆してもらうようにした。若い世代の筆力に期待するとともに、社会学という学問が若い世代によって再生産されることを願ったからである。
 本書は社会学の書籍であるため、この文章も社会学への思い入れが強いものになったかもしれないが、本書を読んで下さった皆さんに、人間と社会についてこれまでとは異なる見方が示される機会になるとともに、社会現象に対する社会学という学問の解析力がチャーミングなものとして開示されることを願うばかりである。

引用文献 Giddens,A. & Sutton,P.W., 2017, Essential Concepts in Sociology, 2nd edition, Polity Press.

書斎の窓
2018年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

有斐閣

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