『アルスラーン戦記16 天涯無限(てんがいむげん)』刊行記念インタビュー 田中芳樹

インタビュー

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天涯無限

『天涯無限』

著者
田中芳樹 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334077358
発売日
2017/12/13
価格
924円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『アルスラーン戦記16 天涯無限(てんがいむげん)』刊行記念インタビュー 田中芳樹

[文] らいとすたっふ

第一巻『王都炎上』が刊行されたのが1986年。以来31年――
ついに異世界ファンタジー小説の金字塔「アルスラーン戦記」が完結する。
最終巻『天涯無限』を書き上げた著者に、
現在の心境や作品に込めた思いについて語ってもらった。

取材 らいとすたっふ

 ***

――『アルスラーン戦記』全十六巻、完結おめでとうございます。お疲れさまでした。

田中 ありがとうございます。はい、たいそう疲れました(笑)。

―― 第一巻が刊行されたのが一九八六年ですので、三十一年目の完結ということになります。なかなかの長さになりましたね。

田中 その間、オトナの事情で書かなかったというか、書けなかった期間が七年ありました。そのあとこちらの都合で六年ほど空いて。実質的にかかったのは十八年でしょうか。

―― その間に、異世界ファンタジーをめぐる情況もかなり変わったように思います。

田中 ええ。書き始めた当時は、「ファンタジー」という言葉さえ使えなかったですからね。「ヒロイック・スペクタクル・ロマン」とか。いや、それも別に嘘じゃないんですけど(笑)。しかも「メインタイトルがカタカナでは売れない」というので、漢字四文字をひねったり。

―― かつては「ファンタジー」はもちろん「異世界」という概念も一般的ではなかったですからね。それが今や……。

田中 カタカナタイトルの本も山のごとく積み上げられてるし。そう思うと三十年って長かったなぁと思うんですけど。済んでみるとあっという間ですね(笑)。

―― 書き終えての感慨のようなものは?

田中 えぇと……これが案外、感慨といえるようなものはないのですね。「宿題をやっと片付けた!」という気分です。これは必ずやらなきゃいけない宿題であって、放り出していい、というものではないので……それはもう、ない知恵を絞り(笑)、考えられるだけのことを考えて、異世界ファンタジーとして、自分が持っているものを全部注ぎ込んだ、という気持ちではあります。

―― 十四巻あたりから怒濤の展開となって、十六翼将が次々と命を落としていくわけですが、描いていくにあたって筆の進み具合というのはいかがでしたか。

田中 もともと終わりのほうを先に考えていましたので。そう、十四巻あたりからになるのかな、ペンは進み始めました。むしろそこまでもっていくところのほうで、やっぱりああだこうだと考えて、なかなか思うようにならなかったのですが。十五巻十六巻あたりになると、予定していた通りに死ぬ人は死に、生き残る人は生き残って……まあ自分でコントロールできる範囲のことはやりつくしたかなと思ってます。

―― 重要なキャラクターが死ぬシーンというのはやはり力が入るものでしょうか?

田中 とにかく「犬死にはさせられないな」という気持ちで。といって露骨に泣かせようなどと考えても、これはこれでいやらしくなりますしね。『銀河英雄伝説』の場合もそうでしたが、どちらかといえば突き放した感じで書きたかったんです。でも、やっぱり思い入れがあったようで、ひとり殺すとペンを置いて「はぁ……(溜息)」くらいのことはありました。

―― その溜息が鎮魂になるわけですね。

田中 鎮魂なのか、「やれやれ」なのか(笑)。

―― 当初からラストシーンは念頭にあったということですが、実際に書かれていくなかで、構想が変わっていったということはありますか。

田中 いや、それはほとんどなかったですね。前のほうで書いていたことをど忘れして、あとのほうで別のことを書いてしまうことはなきにしもあらず……(笑)でしたが。第一部の途中から終わり方については考えていて、第二部を書き始めたときにはほぼ完全にこういう終わり方と決めてはおりました。

―― 伏線もたくさんちりばめられて「ああこのキャラクターは最後には死ぬんだな」ということは匂わせていましたよね。

田中 ええ。それも一〇〇%覚えてるとは限らないんですけども、間違って殺しちゃったというのはないですね(笑)。

―― とくに「ここが見どころ」というか、注目してほしいシーンはありますか。

田中 あ、それはないです。作者としては読んだ方がそれぞれに見つけていただければと思っています。

光文社 小説宝石
2018年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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