中江有里「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2017-18

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  • 琥珀の夢 上 小説 鳥井信治郎
  • 人形たちの白昼夢
  • 戦の国
  • 「新しき村」の百年
  • 西郷と大久保と久光

書籍情報:版元ドットコム

中江有里「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2017-18

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

 伊集院静『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎』は明治一二年生まれのサントリー創業者を描いた評伝小説。大阪・船場の丁稚から独立し、それまでの日本になかった洋酒文化を広めた。情熱と才覚を併せ持つ信治郎もさることながら、周囲の人物が魅力的だ。奉公先の小西儀助、茶屋の女将・しの、松下幸之助など恩義ある人間関係が信治郎を企業人として成長させた。明治、大正、昭和と変わりゆく日本と日本人の姿が浮かび上がる。

 千早茜『人形たちの白昼夢』は、現実と幻想が入り交じる小品集。孤独な女が一人きりのディナーに招待される「スヴニール」では味覚が記憶を刺激され、「ワンフォーミー・ワンフォーユー」では語り手のポットとともに持ち主の少女を静かに見送る。一枚の絵画から物語を想像するような読後感。まさに白昼夢。

 冲方丁(うぶかたとう)『戦(いくさ)の国』は戦国時代を信長ら六傑の視点で描いた歴史小説。中でも明智光秀と小早川秀秋の章が興味深い。裏切り者として歴史に名を刻まれる両者がなぜそうした行動をとったのか。下克上の世で武将が自らを神格化するのは、一瞬先が読めない不安があるからだ。超人的な武将たちの人間的な部分に触れた。

 前田速夫『「新しき村」の百年〈愚者の園〉の真実』は武者小路実篤を中心に創設された「新しき村」の誕生から一世紀続く理由と未来像について、父母が村外会員だった縁から同じく会員になった著者によって綴られる。「人類共生」を掲げた農村共同体は、現在高齢化と収入減で存続が危ぶまれているが、その存在意義が伝わる新書。

 海音寺潮五郎『西郷と大久保と久光』は幕末の複雑な人間関係が、さまざまな史料と著者の解釈によって描かれる。明治維新から一五〇年の節目に海音寺潮五郎作品の復刊が続いているのが喜ばしい。

新潮社 週刊新潮
2018年1月4日・11日新年特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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