大森望「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2017-18

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大森望「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2017-18

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 怪談には季節外れだが、寝正月のお供に、不思議な出来事を描く新刊を集めてみた。山吹静吽(せいうん)『迷(まよ)い家(が)』は日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。時は昭和20年。疎開した軍国少年が迷い込んだ山中の屋敷は、摩訶不思議な力を秘めたさまざまな霊宝を所蔵する(文字通りの)秘宝館だった……。ぶっ飛んだ発想と独特の文体が強烈な印象を残す。

 対する田辺青蛙(せいあ)『人魚の石』は、祖父を継いで住職になるため山奥の寺に帰ってきた“私”が語り手。池の水を抜いたところ、水底から白い男が現れ、人魚だと名乗る……。いわく言いがたいユーモアと怪異が絶妙に混じり合う。

 さらにへんてこなのは、ダグラス・アダムスが1987年に出した長編『ダーク・ジェントリー 全体論的探偵事務所』。殺人事件が起きて名探偵が推理する本格ミステリの形式は踏まえているものの、のっけから電動修道士や亡霊が登場、意味不明の展開が続く。その謎がすばらしく鮮やかに解決されたあとの展開がまた茫然。30年も訳されなかった理由もなんとなくわかるが、『銀河ヒッチハイク・ガイド』愛好者は必読。

小型哺乳類館』は82年生まれの新鋭トマス・ピアースの第一短編集。全12話の冒頭、絶滅動物を甦らせる科学番組のホストを務める息子に頼まれて超小型マンモスのクローンを預かる羽目になった母親の話が傑作。

 最後の1冊『本の本』は、小説ではなく、本に関する仕事の取材レポート集。でんぱ組.incのねむきゅんこと夢眠(ゆめみ)ねむが、いつか自分の書店を開くという夢のため、書店、出版社、取次などさまざまな“本の現場〟を訪ね、本のプロに話を聞く。かつて地元書店でアルバイトしていた経験があるという本好きアイドルだけに質問も的確で、ディープな出版業界マニアも楽しめる。

新潮社 週刊新潮
2018年1月4日・11日新年特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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