山一の倒産劇から20年「あのとき」と「それから」

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空あかり 山一證券“しんがり”百人の言葉

『空あかり 山一證券“しんがり”百人の言葉』

著者
清武 英利 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784062208611
発売日
2017/11/08
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

山一の倒産劇から20年「あのとき」と「それから」

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 あれからもう二十年、まだ二十年。バブル崩壊でさまざまな事件が起きたが、山一證券の破綻はひとつの象徴だろう。羽振りのよかった業界のなかでも、とくに働きやすいと言われていた会社だ。あとから、隠し債務の大きさや「ニギリ」(顧客に利回りを確約する不正取引)の横行が明らかになったが、社員でもそれらを知らない人が多かった。大きな会社だから、自社の状態を正確に把握している人は一握り。仕方のないことかもしれないが、なにも知らずにいきなり職を失った人の多さに、やりきれなさを感じる。

 これは、かつての山一の社員(通称モトヤマ)約百人の、「あのとき」と「それから」の物語である。山一の破綻時、在籍していた社員は七千五百人ほどで、グループ企業を足すと約一万人。そのなかから、実名を出してインタビューに応じた人が百人。山一での役職や、突然の求職活動のてんまつ、転職先の仕事内容も明かしているし、家族のストーリーもいさぎよく語っている。

 じつは簿外債務がこんなにあるんだとこっそり知らされても、自分の会社はつぶれたりしないと思っていた人が大半である。それまでの日常から一転して怒涛のような非日常にほうり込まれ、会社での目標も、顧客との関係も、自分なりの人生設計も、すべて一瞬のうちに失う。大震災クラスの打撃だ。きょうあすを生きていくために、無我夢中でもがく。そんな日々は、二十年という歳月を経てようやく落ち着いて振り返れるのかもしれない。当時幼かった子どもが独立したり、介護していた親を見送ったりという変化がある。いまになってようやく自分のことを考えられるようになった人も少なくないと思う。

 山一最後の総務部長となった人は、新調はしたが使われることのなかった社旗をいまも大切に保管している。廃業二十年を機に書類を廃棄しても、会社からもらった携帯電話の番号だけは変えない人もいる。誰も山一を忘れることはできないのだ。

 モトヤマたちの言葉を読んでいると泣けてくるが、これを「泣ける本」として扱ってはならないと思う。情緒はいったん脇に置いて、これらの証言を具体的に、かつシビアに読みこみたい。そうしなければ山一は成仏できない。証券業や金融関係の人も、そうでない会社員や公務員も、会社組織とは無縁の人も、読めばきっと「思うところ」がある。みんなそれぞれの持ち場で、それを握りしめて生きていくしかないのだ。

新潮社 週刊新潮
2017年12月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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