縄田一男「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2017-18

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  • 信長を生んだ男
  • サーチライトと誘蛾灯
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縄田一男「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2017-18

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 また信長か、というなかれ。『信長を生んだ男』は、命懸けで信長を信長たらしめた、その弟・信行の物語である。

 人物造型や群を抜く情景描写はもとより、魔王と恐れられつつも、帰蝶(きちょう)に母の面影を見て、意外に脇の甘い信長を最強の武将にするために信行が取った行動とは―。後半は涙なしには読めない。これが新人の第二作とは恐れいる。

サーチライトと誘蛾灯』は、昆虫好きの主人公を探偵役に、飄飄たる筆致、軽妙な展開、そして、謎ときの面白さを確実に伝える五篇から成る連作集。

 毎日、眠る前にナイトキャップ代りに読むのに最適。もう一息で泡坂妻夫クラスに。

北のロマン 青い森鉄道線』は、十津川警部がAI絡みの犯罪に挑む六〇〇冊記念作品。

 内容はもとより、巻末に先に六〇〇冊を突破した赤川次郎との対談があり、ヒット作が出るまでの苦心談、執筆のサイクル、キャラクターの変化等が縦横無尽に語られ、これがまたべらぼうに面白い。

幕末雄藩列伝』は、幕末維新期の十四藩の動向を、簡便かつ詳細に捉えた歴史小説ファン必携必読の好著。そもそも、この十四藩のセレクトからして、眼からウロコの史観に貫かれており、作者の『西郷の首』との関連においても見逃せない一巻だ。

 学生時代、夢中になって読んだ檀一雄の『花筐(はなかたみ)・光る道』(旺文社文庫)が、今回、大林宣彦の映画化により、『花筐』として“復刊”された。

 これぞ、檀一雄のロマンチシズムの昇華。いま還暦を迎えんとするとき、この無垢なる青春小説を読むと、思いがけず、無為に過ごした青春に、突如、しっぺ返しを喰らったような気がする。

 ああ、我老いたりしか。

新潮社 週刊新潮
2018年1月4日・11日新年特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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