スター・ウォーズによると世界は――ハーバード教授の一冊

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ハーバード大の名物教授があの世界から世界を読み解く

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 映画『スター・ウォーズ』(後のエピソード4/新たなる希望)がアメリカで公開されたのは1977年5月のことだ。日本では約1年遅れの78年7月1日が初日だった。当時、社会人1年生だった私が、弟と2人で有楽町の「日劇」に向かったのは1週間後の8日だ。ゴジラも愛した円筒形の建物を幾重かの行列が取り巻いていた。館内での興奮も忘れてはいない。それは映画体験を超えた、「スター・ウォーズ体験」と呼べるものだった。

 あれから約40年、最新作『最後のジェダイ』へと至る壮大な物語が続いてきた。個人的には、エピソード4~6の「旧三部作」が好みだが、魅力的なサイドストーリー『ローグ・ワン』にも一票を投じたい。

 これまでシリーズの新作が登場するたびに、「スター・ウォーズ本」とも言うべき出版物が書店に並んできた。キャス・R・サンスティーン著『スター・ウォーズによると世界は』もまたそんな一冊だが、著者がハーバード大学ロースクール教授だという点に注目した。

 本書が扱うテーマは多岐にわたる。ジョージ・ルーカス監督は、この物語をどのように発想したのか。最初の1本であるエピソード4が、予想を裏切るような大成功を収めたのはなぜか。著者が「最も重要な主題」と呼ぶ父性、救済、自由の3つが、いかに語られているか。また、このシリーズで描かれる政治、反乱、帝国などの意味。さらに行動科学、フォースについても考察していく。

 中でも、この「現代の神話」を読み解く際のキリスト教、エディプス(父子の葛藤)、ジハード(聖戦)といった13の視点が興味深い。「英雄の旅」という昔から存在する物語を予想外の環境に置くことで、新たな価値と感動を生み出したと言うのだ。しかし本書の最大の魅力は、時に強引とも思える論理展開によって語られる作品分析が、丸ごとスター・ウォーズへの熱烈なラブレターになっていることだろう。

新潮社 週刊新潮
2017年12月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク