絶望の不思議な力 救いはないが魅力的 「絶望図書館」ほか

レビュー

10
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絶望図書館

『絶望図書館』

著者
頭木 弘樹 [編集]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784480434838
発売日
2017/11/08
価格
907円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

絶望の不思議な力 救いはないが魅力的

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 まったく話がかみあわない異星人と共同生活させられる。壺の中に何百年も閉じ込められて誰も助けてくれない。頭木弘樹編『絶望図書館』は、そんなつらい状況を描いた話ばかり十二編も集めたアンソロジーだ。自らも難病という絶望に向きあった経験を持つ編者が、簡潔かつ優しい紹介文とともに、落ち込んだ気持ちに寄り添ってくれる作品を案内する。

 例えば山田太一の「車中のバナナ」。鈍行列車で同じボックス席に座った人が〈お食べなさいよ〉と言ってバナナを一本渡してくる。語り手は断る。それだけの出来事を綴った短めのエッセイだ。きっと同じことをされても何とも思わない人もいるだろう。しかし、無邪気に発動される同調圧力の恐ろしさがじわじわと伝わってくる。

 李清俊(イ・チョンジュン)の「虫の話」も強烈だ。主人公は小学生の息子を誘拐された夫婦。子供の遺体が発見されるという痛ましい結果になって事件は解決するが、問題はそのあとだ。犯人に対する恨みを信仰によって乗り越えたはずの母親が、最後に行き着く絶望の正体に打ちのめされた。

 頭木弘樹編訳の『絶望名人カフカの人生論』(新潮文庫)は、カフカの日記やノート、書簡から、「絶望」をテーマに名言をピックアップした本だ。カフカは〈いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです〉というネガティブすぎてかえって笑えてくるような言葉を残した人だが、意外と有能な職業人だったとか、作家の伝記としても楽しめる。

 カフカがその出来に満足できず〈ほとんど底の底まで不完全だ〉と日記に書いていたという『変身』(新潮文庫)は、ある日突然虫になった男の話。自由に身動きできず、家族には疎外され、全然救いがないのに、壁を這って気晴らしするくだりなど何回読んでも面白い。絶望の不思議な力を実感する名作だ。

 心が折れてしばらく立ち直れそうにないとき、三冊ともどこまでも一緒に落ちてくれるだろう。どん底の底に着地したら、あとは浮上するだけだ。

新潮社 週刊新潮
2017年12月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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