『午后のあくび』
- 著者
- コマツシンヤ [著]/コマツシンヤ [著]
- 出版社
- 亜紀書房
- ジャンル
- 芸術・生活/コミックス・劇画
- ISBN
- 9784750515274
- 発売日
- 2017/11/13
- 価格
- 1,100円(税込)
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たまにはちょっと毛色の変わった一冊をどうぞ
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
やわらかい線、やさしい絵柄のマンガだ。四ページ読みきりのショートストーリーが三十篇あまり。
主人公は一人暮らしのOLあわこさん。のどかな街に住み、バスで通勤して、休みの日には近所の少女と散歩する。わたしは最初、完全に「ほのぼの系」の作品だと思っていたが、読みすすめるうちにちょっと考えが変わり、俄然おもしろくなってきた。
あわこさんの同僚かご中さんは、背中から見るとポニーテールの女性だが、実は頭部がそっくりそのまま鳥籠だ。籠の中の鳥の尾が長く垂れていて、ポニーテールのように見えるのである。首から下はふつうの人間である。
珍しい自販機にコインを入れると、風を集めて圧縮したキャンディーが出てくる。「梅雨市」で買った傘をひらけば、透明な傘ごしに見える風景のなかを無数の魚がゆうゆうと泳ぎ出す。雨雲のかけらが犬のようにあわこさんになつき、部屋までついてきて床を濡らしてしまう。そんなファンタジー世界である。
作品の舞台「白玉町」は、のびのびと深呼吸をして生きていられる街だ。われわれの暮らしている現実の街と似ているようで、ぜんぜん違う。散歩中ちょっと足をのばせば田園風景が見えてくるような余裕ある街区のつくり、でこぼこや装飾が多くて画一的なところがない建物のデザイン、店に並ぶ一点もののへんてこな商品、人語を話し当たり前に商売をしている動物たち、人と人との淡いつながり。遊び心に満ちたこの街のすべてが、人の心をじんわり溶かし、開かせるつくりになっている。
これは、現実の街がいかにきゅうくつで、人の心を鬱屈させているかを、裏側から描き出した作品なのではないだろうか。鋭い刃物のような現実批評なのではないか。そう考えるとなかなかコワイ作品だ。たまにはちょっと毛色の変わったものを、とお探しのかたにおすすめです。