時代と共に描かれた新しい「家族」の姿 「ウホッホ探検隊」ほか

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書籍情報:openBD

時代と共に描かれた新しい「家族」の姿

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

「4組に1組が離婚する時代」という耳慣れたフレーズが「3組に1組」に変わったのはいつ頃だったろう。数字が変化する一方で、言い回しそれ自体が変わらないのは、言葉そのものに対して向けられるイメージが、むしろ根底では更新されていないことを逆説的に示しているのではないか。

 同時代を生きる読者たちから絶大な支持を受けるも、デビューから10年で早逝した作家・干刈あがた。先日復刊された『ウホッホ探険隊』は、新しい家族の在り方を模索する親子の姿を活写した名作だ。発表は1983年。今よりもずっと「離婚」が――夫婦を解消するという現象が珍しかった頃の情景が、あくまでからりとした筆致で綴られていく。

 両親は夫婦ではなくなった。けれど母と父であることは変わりない、らしい。周囲の視線に負けないよう、大人ぶって割り切ったそぶりを見せていても、多感な息子たちの心の内は頼りなく揺れている。そこにある微細な混乱を濃やかに掬い取る手つきがすばらしい。〈「僕たちは探険隊みたいだね。離婚ていう、日本ではまだ未知の領域を探険するために、それぞれの役をしているの」〉――本作を世に知らしめたこの名台詞は、既存の価値観から外れた生き方を選んだすべての人びとの背中を押してくれる。

〈「父さんは今日で父さんをやめようと思う。」〉――2005年に吉川英治文学新人賞を受賞した瀬尾まいこの『幸福な食卓』(講談社文庫)は鮮烈なひと言で幕をあける。家を出てどんどん奔放になる元・専業主婦の母。進学を放棄し農業に勤しむ元・天才児の兄。そして、数年前に自殺を試みた元「父さん」。家族の面々が事前に割り当てられた役割を次々に手放していく姿は、2組の親子が再婚を機に「幸福な家族」という任務を懸命に遂行しようともがくさまを描いた山田詠美の『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』(幻冬舎文庫)と合わせ鏡ともいえるだろう。読後に浮かび上がる彼らの関係性は、震災後に声高に掲げられた「絆」とはまったく違う。今を生きるためのしなやかな力に満ちている。

新潮社 週刊新潮
2018年1月18日迎春増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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