新年1月号の文芸誌 短篇特集が恒例、しかし見るべき作品が少ない

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新年1月号は短篇特集が恒例、しかし見るべき作品が少ない

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)


『文學界 2018年1月号』

 文芸誌新年1月号では短篇特集が恒例で、『文學界』『すばる』『群像』が作家たちに競作させている。

『文學界』の特集タイトルは「珠玉の小説館」。いまどき短篇に「珠玉」なんて被せるのはいかがなものかとまず思ってしまったのだが、常套句を無造作に使ったキャッチコピーが文学には存外目に付く。多和田葉子、松浦寿輝、西村賢太、青山七恵、小山田浩子、滝口悠生、水原涼による七篇が載っているが、取り上げたいような作品はなかった。

『すばる』の特集タイトルは「対話からはじまる」。テーマ縛りの競作である。上田岳弘、円城塔、高橋源一郎、多和田葉子、津村記久子、橋本治、星野智幸、山崎ナオコーラによる八篇が載っているが、こちらも見るべき作品が少ない。あてがいぶちのテーマが刺激となり当人も思わぬ佳作が生まれる場合もあろうが、今回は裏目に出たようだ。


『すばる 2018年1月号』

 そんな中、山崎の「笑いが止まらない」が面白かった。「作家の山崎ナオコーラに似ている」ブスを自覚する「私」が、美術館で見知らぬ男に顔を笑われる。男は謝り「私」は許すが、「私」の「面白い顔」に男はいやに食い下がり、話はすれ違い続ける。前半で「私」は「笑い」について省察していたのだが、その思索と男との対話が絡んで一篇は意外な結末へ。

『群像』の特集タイトルは「季・憶」。やはりテーマ縛りだ。季節を細かく分けた七十二候はそれぞれ名前を持つ。その名を据えた掌篇を競作させる「歳時創作シリーズ」で、一年を通しての連続企画だそうだ。今号には、瀬戸内寂聴が「麋角解」、絲山秋子が「雉始●(●=句+隹)」、伊坂幸太郎が「鶏始乳」を書いている。企画色が強く、個々の作品について論評するのは難しいが、二つの世界を平行させるという趣向を短い中で凝らした伊坂作が目を引いた。

 評論では、若島正異次元の影――科学史から見たナボコフ」(新潮)が、ナボコフの非ユークリッド幾何学と四次元への関心から彼の作品を読んでいて興味深かった。新潮社が刊行を開始したロシア語原典訳による「ナボコフ・コレクション」特集の一部である。

新潮社 週刊新潮
2018年1月18日迎春増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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