『天才の証明』 中田敦彦著

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天才の証明

『天才の証明』

著者
中田 敦彦 [著]
出版社
日経BP
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784822259211
発売日
2017/11/06
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『天才の証明』 中田敦彦著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

 お笑いコンビ、オリエンタルラジオは「武勇伝」というリズム芸で一躍有名になった。その芸は、本書の著者であり、コンビの司令塔である中田が日常の武勇伝を歌い、相方の藤森慎吾が全力で褒め称(たた)えるというものだ。

 中田と藤森は対等なコンビである。だが舞台では、設定とはいえ、中田が上で藤森が下という、完全な上下関係がある。もし藤森がそれに抵抗を覚えるならば、「武勇伝」の独特な世界は成立しない。だが藤森は、不平も疑問も一切もたず、素直に設定を受け入れ、役割をやり遂げる。

 中田によると、藤森には「やりたいこと」がない。だが、その反面として「言われたことをまっとうする」のが非常に得意である。中田は藤森のその個性を、特殊な才能だという。中田が立てた戦略を、藤森は猛烈に実行する。そうしてコンビは唯一無二の世界を作り上げる。

 人間は、自分が属する集団の評価軸にとらわれやすい。「勉強ができる奴(やつ)がえらい」進学校なら成績の上昇を、「踊りが上手(うま)い奴がえらい」ダンススクールならダンスの上達をと、その場の評価軸での上をめざす。だが、そうした評価軸と自分との相性がよいとは限らないし、そもそもその評価軸が絶対というわけでもない。

 芸人の世界では、漫才や大喜利の能力が重視される。だがその評価軸と相性がよくない中田は、試行錯誤のすえ、リズム芸に己の活路を見出(みいだ)す。中田はいう。天才サッカー選手メッシが卓越しているのは、彼の能力そのものではなく、彼の能力とサッカーとの相性なのだと。成功の本質とは、自分を変えることではなく、自分の個性が活(い)きる環境に出会うことにあるのだ。

 この「適材適所」の原則は、その後の芸の開発でも貫かれる。藤森の軽快な性格を活かした「チャラ男」での再ブレイクや、グループを組んでの紅白歌合戦出場は、その成果である。自分の努力の方向性を、どこに向けるべきか。本書はそれを見つけるための、絶好の羅針盤となるだろう。

 ◇なかた・あつひこ=1982年生まれ。慶応大在学中に明治大在学中の藤森とオリエンタルラジオを結成。

 日経BP社 1400円

読売新聞
2018年1月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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