<東北の本棚>郷土振興に挑んだ軌跡

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<東北の本棚>郷土振興に挑んだ軌跡

[レビュアー] 河北新報


『商港都市酒田物語 新田嘉一の夢と情熱』粕谷昭二[著]

 養豚業にかける熱い思いが民間外交を成功させ、郷土の発展と人・文化を育む夢へとつながった。平田牧場(酒田市)取締役会長で東北公益文科大理事長の新田嘉一さん(84)=2014年度河北文化賞受賞=の足跡を丹念に追った。
 新田さんは山形県平田町(現酒田市)で農家の長男として生まれた。父の反対を押し切り、稲作から転じて養豚業を開始。養豚の技術指導で中国・黒竜江省に招かれたことをきっかけに、良質な飼料用トウモロコシを同省から輸入する構想を描く。
 目指したのが、ハルビンを起点に松花江、アムール川を抜けて酒田港に至る約2800キロの航路の開設。アムール川で中国・ロシアの国境を越える「奇想天外」な航路だった。しかし新田さんの熱意が通じ、実現に向けて中ロ政府の協議が進む。1992年「東方水上シルクロード」が誕生する。
 新田さんを突き動かしたのは、輸入交渉を始めた時に黒竜江省側が発した一言。「新潟港と秋田港はあるが、酒田港の名前は地図に載っていない」。国際港と信じていた酒田港が隣国で認知されていないという衝撃が足元の現実に目を向けさせた。
 新たな航路は酒田港と環日本海諸国との貿易をはじめ、人的交流を拡大させた。「人づくりこそ地域振興の要」と、2001年に開学した東北公益文科大では次代を担う若者を育成。老舗料亭だった建物を買い取って伝統文化の継承にも取り組む。経済的価値を超えた幅広い活動は、飽くなき挑戦心と豊かな郷土愛に貫かれている。
 著者は荘内日報社(鶴岡市)の論説委員。同紙の連載(2015年10月~17年6月、全85回)を一部加筆してまとめた。
 荘内日報社0235(22)1480=1944円。

河北新報
2018年1月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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