『小太郎地獄遍路 慟哭の満州』
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<東北の本棚>時超え震災と戦争結ぶ
[レビュアー] 河北新報
東京の大学院で国史を学ぶ脇森小太郎は、春休みに気仙沼市の実家に帰省中、東日本大震災に遭う。父の浩太が院長を務める整形外科医院まであと一歩のところで、祖父の太郎と共に津波に巻き込まれる。
太郎は戦時中に満州(中国東北部)でソ連軍に攻められ、シベリアに抑留されたが脱出して帰国したことを、小太郎によく話していた。
小太郎は医院の近くに漂着し、父に助けられたが、意識は戻らない。小太郎が気付くと、そこは満州のソ連国境付近。祖父の脇森太郎伍長と体が入れ替わっていた。1945年8月8日、ソ連参戦の日だった。
大震災と戦争を結ぶタイムスリップ小説だ。小太郎はソ連軍の猛攻をかわしたものの、仲間の裏切りでシベリアに抑留される。専攻していた史学の知識や、太郎から聞かされた体験談を思い出しながら、絶望的な状況を打開していく。
過去と現代がさまざまな形で結び付く設定はよく工夫され、話に膨らみが出た。膨大な史料、関係者の証言などを基に執筆した作品。邦人に残虐の限りを尽くしたソ連軍の非道を告発するのだという、著者の強い思いが伝わってくる。
著者は1955年水沢市生まれ、山形大医学部卒。現在は秋田市で整形外科医院を開いている。
文芸社03(5369)2299=1728円。