「カミングアウト」して牧師になったLGBT当事者の告白

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「カミングアウト」して牧師になったLGBT当事者の告白

[レビュアー] キリスト新聞社

 「あなたが気づかないだけ~」という書名が実にストレート。実際は身近にいるのに、その存在を見ようとしてこなかった社会と教会に向けて発せられたLGBT当事者の直言。

 日本で初めて「カミングアウト」して牧師となったことで知られる著者。前半は、男性同性愛者であることを公言するに至った半生を綴る。同性愛者としての目覚め、悩みと葛藤、偏見や差別の辛さ、心中に去来したさまざまな思い、感情、覚悟などが克明に語られる。後半は、性的少数者が疎外されるさまざまな理由、「性的少数者とはどんな人々なのか」についての正確な知識を提供してくれる。

 筆者は、性的少数者が疎外される理由として「社会の仕組みを(あるいは和を)乱す存在だ」「性的少数者は奔放でわがまま」といった偏見や、偏見がベースにある「生理的嫌悪感」を挙げ、その過ちを指摘しているが、中でもキリスト教(教会)内で性的少数者への差別や疎外を生んでいる要因である「同性愛は罪」という伝統的(保守的)な教え、「絶対化」された特定の聖書解釈、それらを「鵜呑みにする」信仰者のあり方に繰り返し批判を向け、著者が心掛けている「信仰者のあり方」と、自身がたどり着いた「同性愛を罪としない」聖書解釈を提示する。

 自身の解釈も相対化されるべきと考えているので、「同性愛は罪ではないと知ってほしい」という思いと、「自分の主義主張を、聖書を盾に絶対化してはならぬ」という態度との間の緊張感が文中にじみ出る。常にこの緊張感の中で生きること自体が戦いだと感じさせられる。

 性的少数者についての「知識」が書かれた部分は、筆者がそうなるよう心掛けたという通り、とても平易で分かりやすい。掲載されている「図」を見るだけでも、知識不足から来る誤解や混乱を解くのに大いに役立つに違いない。

キリスト新聞
2017年12月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

キリスト新聞社

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