『買う理由は雰囲気が9割』
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人は“いい感じ”に心惹かれる? 雰囲気でモノが売れるときの起・承・転・結とは
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『買う理由は雰囲気が9割 ~最強のインフルエンサーマーケティング~』(福田晃一著、あさ出版)の冒頭には、次のように書かれています。
インターネットやインスタグラム、Twitter(ツイッター)、Facebook(フェイスブック)などのSNSの発展により、個人が簡単に情報を発信し、賞品を獲得することができるようになりました。
今や国内だけで数千万人、海外を含めると数十億人がネット、SNSのアクティブユーザーであり、発信され続けている「個人」の情報を参考に買うもの、それも食べるものすら選ぶようになっているのが実情です。(「はじめに」より)
注目すべきは、一般人のなかからコミュニティ内で大きな影響力を持つ「インフルエンサー」という存在が生まれ、活躍しはじめていること。そして数万人のフォロワーを持つ彼らが、それぞれ得意な分野、望まれるスタンスで、トレンドの新たなリーダーになっているということ。
著者は多くの企業をクライアントに持ち、数々のインフルエンサーマーケティングを手がけている人物ですが、つまりここではそんな立場から、これからのマーケティングにおける「雰囲気」の重要性を説いているわけです。
そんな本書のなかから、Chapter 2「消費者が欲しがっているのは『イケてる自分』」を見てみましょう。
人は“いい感じ”に心惹かれる
いま、世の中でどんなことが起きていて、売れる商品と売れない商品にどのような格差が生まれているのか。そのことを突き詰めていくうえで、まず押さえておくべきは次の3点だと著者は主張します。
・ いいモノを作っても、それだけでは売れない
・ モノ自体よりも、モノにまつわる体験価値重視の時代になってきている
・ 売れるモノとは、消費者(インフルエンサー)の共感を引き出したモノである
(58ページより)
なぜなら、ソーシャルメディアがマスメディアよりも大きな影響力を持ち、販促ツールとして重要な役割を担っている時代においては、この3つを基盤にして売り方を考えていく必要があるから。
ソーシャルメディア上には無数の情報が乱れ飛んでおり、人はそのなかから、自分にとって重宝する情報とそうでない情報とを取捨選択し、自分のものにしていきます。そしてその「デリケートな感覚」の指針となっているのが、本書において重要なキーワードとして強調されている「雰囲気」だというのです。
「あの人の投稿、なんか“いい感じ”だな」
「みんな“いい感じ”で楽しそう」
この“いい感じ”、これが「雰囲気」です。うまく言葉にできないけれど、気持ちのいい温度感を持つもの。(59ページより)
雰囲気とは「共感と共感の間にある空気のようなもの」ですが、それはモノだけを前面に押し出した写真を投稿しても生まれるものではありません。そのモノに共感する「人」が介在して、初めて雰囲気になるわけです。いわば、「人とモノのコラボレーションから、多くの人々に共感される雰囲気が生まれる」ということ。
だとすれば、ソーシャルメディアでのPR展開の成否は、この雰囲気をどうつくり出していけるかにかかっているということになります。だからこそ、その共感を生み出すために、インフルエンサーに協力してもらうという発想なのです。
さまざまなネットユーザーが多数投稿していれば、そこに生まれるのは「この商品はよさそうだな」という雰囲気。彼女たちを通じて消費者の共感、そして雰囲気が生まれれば、売れ筋商品になる可能性が高くなるということです。
そして、共感とつながりから起きる雰囲気が、どのように“売れ”を起こしていくのかは、「起」「承」「転」「結」で説明することができるそうです。
「起」は、自分が“いいね”=「共感」する投稿を発見すること。これが、雰囲気をつくる原点だといいます。「承」は、何人かのユーザーが同じように投稿していることを知り、みんながやっているという現象の推移=「つながり」を見つけること。
「起」「承」を通じて、「いいな」と思うことを他の人はすでにやっていて、さらに盛り上がっている雰囲気を感じることで、興味関心を持ちはじめ、感化されていくということ。その結果、「自分もやってみたい」「行ってみたい」「食べてみたい」など、体験に関する欲求が増大していくわけです。
「転」は、体験したいという欲求がついに行動(購入)につながること。購入は「結」であるようにも思えますが、いまや購入したことが終わりではないといいます。なぜなら「いいな」と共感した体験をすることが購入の目的であり、購入自体が目的ではないから。そのため購入して消費者になるという行為は転機であり、体験すること(「シェア」も含む)が「結」だというのです。
「起」で気づいた共感は「承」ではじまり、「転」で生活者から消費者に変わり、「結」で体験し、「起」になるということ。また、体験のシェアは新たな「起」となり、大きな雰囲気をつくっていく循環にもなるとか。さらにそれは同時多発的に他の場所でも「起」「承」「転」「結」を繰り返すことになるのだともいいます。(58ページより)
インフルエンサーに響く2つの特徴
企業のPR担当者と話をしているとき、著者は「これ、インスタグラムで流行りますか?」と質問されることがあるのだそうです。しかし、「モノの素晴らしさとインスタグラムで流行るかどうかは必ずしもイコールではない」と著者。インフルエンサーが、そのモノに興味を持ってくれるかどうか、つまり「インフルエンサーの心に響くか」が指標になるというのです。
だとすれば、なにがインフルエンサーに響くのかが知りたくなりますが、答えは次の2つだそう。
商品としてよいモノ、面白いモノ。
投稿する上で、制約なく自由に表現することができる状態にあるモノ。
(65ページより)
前者は企業にとっての問題ですが、難しいのは後者。よいモノができれば、企業としては多くのことを伝えたいはず。ところが企業側の思いが強くなりすぎると、「これが素晴らしいから買ってください」といった言葉に偏りがちでもあります。
しかし、そうした提携の広告物表現は、インフルエンサーがもっとも嫌うものでもあります。自分自身の言葉で表現しているからこそ、彼女たちはソーシャルメディアで信頼を獲得し、大きな共感力を獲得しているからです。だから、ソーシャルメディアの主役であるインフルエンサーと共創したいのであれば、企業はまずインフルエンサーを信じ、ある程度は彼女たちに任せることが必要なのです。
いわば、モノや見せ方になにかしらの独創性が入り込む余地があることが、インフルエンサーが生き生きと効果的なPR広告を投稿できる絶対条件だということ。いいモノがあると同時に、彼らがモノを表現する自由な関係・環境があることが重要であるわけです。
ただし当然ながら、インフルエンサーにおんぶにだっこでは不十分。あくまでも「共にやっていこう」というスタンスで、企業として守るべきこと、大事にすべきこと、必ず打ち出したいことなど、伝えるべきことはきちんと伝える。そしてその一方で、いつでもインフルエンサーを援護射撃できる環境を整えておくべきだということ。
インフルエンサーとの間に友好的かつ創造的な関係を構築することができれば、ソーシャルメディアにおいて雰囲気を生み出す=ヒットの種を植えられる可能性が高くなっていくということです。(65ページより)
もはや、従来のマーケティング手法を踏襲しているだけでモノは売れないということを、感覚的に理解している人は決して少なくないはず。だからこそ、「これからどうすべきか」を考えていくうえで、本書は大きく役立ってくれると思います。
Photo: 印南敦史