『アメリカ 暴力の世紀』 ジョン・W・ダワー著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

『アメリカ 暴力の世紀』 ジョン・W・ダワー著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 『敗北を抱きしめて』で戦後日本の復興とそれを支えた当時の日本人の精神性を(真摯(しんし)に丁寧に敬意を込めて)描き出し、私のような「子供のころからさんざっぱら親の戦中戦後苦労話を聞かされ続けて内心ウンザリしている」世代に、親世代への労(いたわ)りと尊敬の念を目覚めさせてくれたジョン・ダワー。以来、私は感謝を込めてダワー先生とお呼びしている。

 先生の専門は日本の近現代史だ。他国の歴史を研究する学者さんはその対象国ばかりに興味があって、自国の歴史には無関心なのだろうか。そんなことはあるまい。『敗北を抱きしめて』にも、アメリカが戦後日本をどのように占領統治して新しい民主国家を誕生させていったのか、その過程を分析してゆくことで、「自由の国アメリカ」の本質に関わる重要な要素が見えてくる――いわば日本という外の国をプリズムとしてアメリカを見つめ直すというテーマも含まれていたのだと思う(だからといって感謝の念に変わりはありませんが)。

 では、そのダワー先生が自国アメリカの暴力の歴史を直視したらどうなるのか。本書は第二次世界大戦以後にアメリカが関わった数々の戦争と、その国土と国民の心に甚大な被害と恐怖を与えてきたテロリズムについての書だ。ジョン・ダワーが冷戦や九・一一同時多発テロをどのように見ているかということだけでも充分に興味深いし、この邦訳版には「日本語版への序文」という凄(すご)いおまけもついている。本文はオバマ政権の最終盤までが対象の論考なので、二〇一七年一月から始まったトランプ政権については触れられていないのだが、それがこの序文で補われていて、ダワー先生の懸念する傾斜への象徴的な存在としてのトランプ大統領像が浮かび上がってくるのだ。今度は私たちの方が「同盟国アメリカの歴史を通して自国を見つめ直す」契機として、年の初めに本書を手に取ることをお勧めしたい。田中利幸訳。

 ◇John W. Dower=1938年生まれ。マサチューセッツ工科大名誉教授。専攻は日本近代史。著書に『昭和』など。

 岩波書店 1800円

読売新聞
2018年1月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加