『戦後の精神史』 平川祐弘著

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戦後の精神史

『戦後の精神史』

著者
平川 祐弘 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784309026213
発売日
2017/10/27
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『戦後の精神史』 平川祐弘著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

 「戦後」とは何だったのか。その正体を、仏文学者の渡邊一夫と独文学者の竹山道雄を軸に、カナダの外交官で歴史家のハーバート・ノーマンらを絡ませ、自らの来歴、関わりも語りながら解明しようとした書である。その射程は1945年の敗戦から60年安保を経て、2015年の「安保法制反対」にまで及ぶ。

 著者が依拠するのはもちろん竹山道雄である。自由を守ることにおいて一貫し、戦前は反軍国主義、戦後は反共産主義、反人民民主主義を貫いたからだ。渡邊一夫に対する複雑な心情、「敗戦後の最高レベルの知識青年」いいだももの知識人批判の紹介など実に興味深いが、この書の最大の眼目はノーマン批判にある。

 ノーマンはマッカーサー総司令部の要職にあって「戦争責任に関する覚書」を作成、近衛文麿の死にも影響を与えたといわれる。『日本における近代国家の成立』などの著作は丸山真男ら戦後日本の知識人に高く評価され、今なお北米学界の一部で神格化されているという。

 そのノーマンの何が問題か。「日本の農民はすべての封建社会の中でも最も徹底して搾取されてきた」という徳川暗黒史観に典型的に表れているように、そこには竹山が指摘する「上からの演繹(えんえき)」があるからだ。竹山は『昭和の精神史』で、明治維新は「上からの革命」で、支配階層とその精神は封建時代のままもちこされ、昭和の歴史を動かしたのもこれが主体だったというノーマンらの見方に異議を唱え、こう説明する。

 〈歴史を解釈するときに、まずある大前提となる原理をたてて、そこから下へ下へと具体的現象の説明に及ぶ行き方は、あやまりである。「上からの演繹」は、かならずまちがった結論へと導く。事実につきあたるとそれを歪めてしまう〉

 読み終わって痛感するのは竹山の指摘は決して過去のことではない、「上からの演繹」は今も一部ジャーナリズムの世界で蔓延(まんえん)しているではないかということである。

 ◇ひらかわ・すけひろ=1931年東京生まれ。東京大名誉教授、比較文学史家。著書に『小泉八雲 西洋脱出の夢』。

 河出書房新社 2000円

読売新聞
2018年1月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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