廃寺に残された怪異を集めた短編集 『人魚の石』田辺青蛙

レビュー

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人魚の石

『人魚の石』

著者
田辺青蛙 [著]
出版社
徳間書店
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784198645083
発売日
2017/11/29
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

廃寺に残された怪異を集めた短編集

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 誰に教わったわけでもないが、お寺と神社は幼い時から特別な場所だった。境内で遊んでいても、ふとした瞬間、何か別の気配を感じた。それが当たり前だった。

『人魚の石』を読みながら、そんな懐かしい気持ちが蘇ってきた。多くの人が祈る場所だから、その思いは凝縮され留まっている。本書は、廃寺に残されたその思いを丁寧に拾い集めた短編集だ。

 祖母が一人で守っていた田舎の山寺を継ごうと日奥由木尾は若き住職となって戻ってきた。荒れ果てた寺の掃除をするため、古い池のかいぼりをすると、底に白い肌をした男の人魚が眠っていた。「うお太郎」と名付けられたやけに人懐こい男は、由木尾の祖父母に可愛がられていたと話し、自分が池に眠っていた理由と寺の関係を説明する。

 山では水晶をはじめとして様々な奇石が採れる。祖父は幽霊を捕まえるのが趣味で、石の中に封じ込めていた。この家の血を引く者は特別な石の音を聞くことができるという。様々な力を持つ石を由木尾とうお太郎は見つけ、本来の力を解放させていく。

 やがて、小説家の兄が何かから逃れるように寺に来る。俗世の相談事と別に、祖父が集めていた「記憶の石」が見つかった。遠い記憶が蘇る。

 貧乏寺だから収入のための仕事は厭わない。兄から紹介された原稿を書き、近くの小学生に仏教の話をする。その中にいた一人の少女に、由木尾は命を助けてもらう。彼女の正体は何なのか。

 天狗が現れ、人魚の木乃伊(ミイラ)が発見され、祖父母が行ったことが明らかにされていく。

 人魚や天狗に遭ったことなどないけれど、この物語の怪異には馴染みがある。私はどこから来たのだろう、と考えさせられる物語だ。

光文社 小説宝石
2018年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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