三人の少女たちの三十年『インフルエンス』近藤史恵

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インフルエンス

『インフルエンス』

著者
近藤 史恵 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163907581
発売日
2017/11/27
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

三人の少女たちの三十年『インフルエンス』近藤史恵

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

 小説家として二十年以上のキャリアを持つ〈わたし〉は、出版社から転送されてきた読者からの手紙を受け取る。その手紙には、本の感想に続いて、〈わたしと友達ふたりの、三十年にわたる関係〉を書いてほしいという訴えが綴られていた。その切実な文体に何かを感じた小説家は、手紙の送り主・戸塚友梨と会うことにする。友梨が指す〈友達ふたり〉とは、同じマンモス団地に住んでいた幼なじみの日野里子と、親の離婚で、中学に入ってからその団地に越してきた坂崎真帆だ。友梨は、毎日のように遊んでいた里子と小二のある日を境に疎遠になっており、代わって仲良くなった真帆と一緒にいるようになる。中二の十二月、真帆に乱暴しようとした男を友梨が刺してしまい、ふたりは慌てて逃げた。翌朝、殺人犯として里子が警察に連れて行かれたのを知ったが、本当のことを言い出せないまま、時は過ぎ――。

 友梨、里子、真帆のそれぞれに何が起きたのか。何が彼女たちを近づけ、遠ざけてなお〈大切な友達〉だと言わしめたのか。友梨の一人称語りで進む三十年にわたるねじれた共犯関係。その物語が、友梨との面談を振り返る小説家の感想を交ぜながら、少しずつつまびらかになっていく。

 彼女たちが関わってしまった凶行は、社会的には断罪されるしかないのだろう。だが彼女たちが犯行に及んだ理由、あるいは自己犠牲をいとわなかった理由が痛いほどわかる。本能的に赦したくなってしまうのは、彼女たちがいわば魂の殺人ともいえる理不尽さの被害者だからだ。救いの手は、常になかなか、弱者に差し伸べられない。〈わたしたちが自由に旅に出ようとしたら、殺されるか――それとも、殺すか。そのどちらかだ〉というフレーズに共感する人に、強く薦めたい。

光文社 小説宝石
2018年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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