『チュベローズで待ってる AGE22』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『チュベローズで待ってる AGE32』
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この著者名にピンとこない そんな人にこそおすすめです
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
又吉直樹の芥川賞受賞、藤崎彩織(さおり)の直木賞ノミネートなど、昨今、芸能人の文芸進出が話題の的だが、加藤シゲアキの場合は年季が違う。ほぼ年に1作のペースで小説を出し、今度で5作目。初の2巻本となる過去最長の本書は、エンタメのド真ん中を猛スピードで突っ走る。
上巻にあたる『AGE22』は2015年の秋に始まる。22歳の大学生、“僕”こと金平光太は、30社以上受けた就職試験にすべて失敗。唯一、最終面接まで漕ぎつけたスマホゲームの大手メーカーDDLからも不採用を伝えられ、新宿で飲んだくれているとき、怪しい関西弁を使うカリスマホストの雫(しずく)にスカウトされる。容姿にもコミュニケーション能力にも自信のない光太だが、家族のために金が必要。雫が持つ人間的な魅力と支度金の10万円につられて、就職浪人の1年間限定でホストとして働くことを決意する。雫の店は、新宿バッティングセンターのすぐ北、歌舞伎町・稲荷鬼王神社の裏にあるホストクラブ、チュベローズ(店名は、夜に強い香りを放つため月下香(げっかこう)とも呼ばれる白い花に由来)。未経験の商売に飛び込んだ光太の運命は?
著者はインタビューで、アイドル業(およびジャニーズ事務所)にはホスト業と通じる部分があると語っているが、そのせいかどうか、40名前後のホストが売り上げを競う熾烈な世界の描写は生々しく、一種のビジネス小説としてもめっぽう面白い。
光太がホストとして成り上がるのと並行して、次の採用試験に向けた就活も始まる。コーチ役は、客として店を訪れたDDLの幹部、美津子。彼女の厳しい指導のもと、DDLのインターンシップに参加し、光太は就活生としても自信を深める。バイブルは、美津子の愛読書でもあるマキャヴェッリの『君主論』……。
とまあ、最後までひと息に読ませるが、実はこの巻は壮大な前フリ。ゲーム業界で成功を収めた光太を描く『AGE32』のほうが本番だ。
伊藤計劃(けいかく)『虐殺器官』に触発されたという近未来のゲーム描写も読みどころだが、焦点は美津子の過去。彼女の不可解な行動に、どんな理由があったのか。光太の会社を襲う危機と並行して、前巻に隠されていた意外な真実が描かれる。どんでん返しに次ぐどんでん返しと、予想の斜め上を行く超展開。ま、まさかそんな真相が!? ミステリー度の急上昇と同時に、恋愛小説としてもぐっと深くなる。加藤シゲアキもNEWSも知らない読者にこそ薦めたい、怒濤のノンストップ・サスペンス。