愛おしさと寂しさがこみあげる吸血鬼文学 「ほんとうの花を見せにきた」ほか

レビュー

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  • ほんとうの花を見せにきた
  • 十月はたそがれの国
  • 呪われた町
  • 屍鬼

書籍情報:版元ドットコム

愛おしさと寂しさがこみあげる吸血鬼文学

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 大人たちの抗争が続く腐敗しきった町。家族を皆殺しにされた一人の少年を救ったのは、バンブー族に属するヴァンパイアの青年だった――桜庭一樹の『ほんとうの花を見せにきた』は、桜庭版吸血鬼文学。ホラー色の強いものではなく、愛おしさと寂しさがこみあげてくる美しい物語だ。

 本来は人間との接触を禁じられていた吸血種族が人間を育てる第一話では、歳をとらない一族に対し、少年はすくすくと成長していく。異なる時間の流れの中で、絆を育んでいく異種族同士の姿が刹那的にきらめく。第二話では一族から除け者にされた少女と人間の交流が描かれ、第三話では過去に遡り、かつて暮らしていた国からバンブー族の生き残りが旅立っていく。彼らが植物性という設定の妙味も際立ち、著者ならではのゴシック世界が繰り広げられている。

 少年と吸血鬼といえば思い出すのが、レイ・ブラッドベリの異色短篇「二階の下宿人」(『10月はたそがれの国』所収、宇野利泰訳、創元SF文庫)。町で奇妙な連続殺人が発生し、吸血鬼の仕業という噂も持ち上がる折、下宿屋に暮らす十一歳の少年が新たに入居した紳士に興味を持つ。昼は部屋にこもって夜だけ出かけ、銀食器の使用を拒むその男。彼の不気味さに気づいた少年が起こした行動がなんともブラックすぎて、思わず笑ってしまう結末だ。短いながらも強烈なインパクトを残す一篇である。

 現代社会を舞台に吸血鬼を描いた名作といえばスティーヴン・キングの『呪われた町』(永井淳訳、集英社文庫 上下巻)。二十五年ぶりに故郷の田舎町に戻ってきた作家のベン。彼はかつて不気味な体験をした丘の上の廃墟について書くつもりだったが、最近になってその屋敷に謎めいた新参者が入居したと知る。折しも失踪事件や不審な死が相次ぎ、平穏だった町は恐怖に侵略されていく。多数の住民が登場、著者お得意の群像劇の巧さも光る。小野不由美の『屍鬼』(新潮文庫 全五巻)のオマージュ元としても知られる本作、発表は一九七五年だが、今読んでも痺れるくらい怖い!

新潮社 週刊新潮
2018年1月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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