『天涯無限 アルスラーン戦記16』 田中芳樹著

レビュー

5
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天涯無限

『天涯無限』

著者
田中芳樹 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334077358
発売日
2017/12/13
価格
907円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『天涯無限 アルスラーン戦記16』 田中芳樹著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

英雄叙事詩、感嘆の完結

 本を読み終えてこんな大きなため息をついたのは、いつ以来だろうか。

 田中芳樹氏の歴史ファンタジー小説『アルスラーン戦記』が完結した。第1巻『王都炎上』の刊行は1986年。その後、版元が変わったり、長期の中断をはさんだりして、今回ついに最終巻である第16巻『天涯無限』が出た。

 物語は、中世のユーラシア大陸をモデルとした架空の国々を舞台とし、少年王アルスラーンと仲間たちが理想の国を作るため、馬を駆り、知恵と剣と弓で戦う英雄叙事詩である。登場人物は個性豊かだ。「理想的な王とは何か」を問い続ける理想的な王、アルスラーン。絶世の美女で弓の名手ファランギース。皮肉屋の楽士だが武人としても有能なギーヴ。最強で忠実な戦士ダリューン。絶対悪の権化とも言うべき蛇王ザッハーク、等々。物語の終盤、敵味方の主要キャラは次々に散る。生き残るのはわずかだ。ラストのセリフは見事で、最終巻のタイトル『天涯無限』の伏線回収にもなっている。

 同じ作者のSF歴史ファンタジー『銀河英雄伝説』と同様、本作も作者の中国史に対する深い造詣が隠し味となっている。覇道より王道、暴力より武徳、部下の実力を最大限に引き出す内省的なリーダー、一癖も二癖もありながら理想のため一致団結する仲間。『三国志』ばりの権謀術数や、ドラマチックな人間関係、そして詩情が、本作に英気をみなぎらせている。

 1986年の第1巻で14歳だった主人公は、最終巻でようやく19歳である。その間、現実界では、若いころ第1巻を読んだ読者が中高年となる一方、近年のアニメ版や漫画版『アルスラーン戦記』から入ってファンになる若者も多い。史実に取材した歴史小説は、歴史学の進歩などで古びる。歴史ファンタジーである本作は、今も全巻が新鮮である。全16巻という分量に尻込みする人もいるだろうが、物語らしい物語を満喫したい人に、お勧めしたい。

 ◇たなか・よしき=1952年生まれ。作家。『銀河英雄伝説』『創竜伝』などの人気シリーズを手がける。

 カッパ・ノベルス 840円

読売新聞
2018年1月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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