『全員死刑』の27歳映画監督 作品作りをたどる回想記

レビュー

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実録・不良映画術

『実録・不良映画術』

著者
小林 勇貴 [著]
出版社
洋泉社
ISBN
9784800313720
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

既成の映画美学を打ち壊す 『全員死刑』監督の回想記

[レビュアー] 都築響一(編集者)

 映画会社とテレビ局と広告代理店が組んだ、「なんとか製作委員会」みたいな大資本の映画にはほとんど興味が持てないけれど、監督がビデオカメラを抱えて走り、出演するのはぜんぶ友達、みたいなギリギリ低予算の日本映画に、最近すごくおもしろい作品が出てきている気がする。特に、暴力モノに。その象徴的な存在が小林勇貴で、まだ27歳の映画監督だ。

 去年11月に『全員死刑』が劇場公開された小林監督は、これまでも演技経験ゼロ、本物の不良たちばかりを集めて映画をつくったり、最新作の『ヘドローバ』では携帯電話でまるごと一本撮ってしまったりと、「フィルムならではの情感を湛え、丁寧に日常を切り取った」的な映画美学から抜け出せない業界人を震え上がらせている。

『実録・不良映画術』はそんな小林監督が資金もなく、業界のコネもバックアップもなく、つまりなんの目算も確信もないまま、ストリートの知恵と気合いと根性と、根拠のない自信だけで突っ走ってきた映画づくりの日々をたどる回想記。映画というものが特別な機材とたくさんの人員と、経験と資金がなくてはつくることができず、企業の意に沿わなければ公開することもできなかった時代が、とうの昔に過ぎ去っていることを、「やりたかったら、いまやればいいんだよ!」というエネルギッシュなメッセージとともに、まるで漫才のような実話の笑いとともに再確認させてくれる。「最近の若者はおとなしくて」とか言いつつ、自分も動かないオヤジにこそ読んでほしい、危険なエネルギーが詰まった一冊。生まれ育った富士宮市の郊外感覚が、映画表現に結実していくプロセス。そのリアリティがみずみずしく、勇気づけられもする。いま、小林監督の作品はネットでも有料配信がスタートしているので(https://plus.vice.com/)、読み終わってウズウズしたら、地上波のテレビなんか消して、ネットにかじりついていただきたい。

新潮社 週刊新潮
2018年2月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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